及川徹の場合 4
「……嫌だ。」
『お願い、分かって…。徹君のためだって言いたいけど、結局一番は私のためって言えちゃうくらい最低な女なんだよ。徹君のそばにいていいハズがない』
「いいよ、そばにいてよ。別に我が儘言っても良いよ。」
あぁ、どうして好きだよという言葉が素直に言えないんだろう。
『お願い、…別れて』
「俺のそばから離れてくなんて絶対許さないから」
『私ってアホだし、ノロマだし、ブスだし、スタイルだってよくないし…。それに特に好きな顔ってわけでもないんでしょう…?』
今まで言ってきた言葉がブーメランとなって針のように突き刺さる。そんなこと一度も思ったことないんだよ。
「それは…本心じゃない。別れるなんて許さないよ」
『どうして…聞いてくれないのよぅ……。最後くらい私の我が儘聞いてよ…』
声も体も震えていた。ここで俺から解放してあげることが一番なのかもしれない。でも、心の中でそれはダメだと叫んでいる。
「そんなに俺と別れたい?」
『…このままじゃ、心が壊れちゃいそう。徹君を好きなまま終わりたい』
彼女は俺とのことを思い出にする気でいる。俺を好きなまま、綺麗な形で終わりたいんだ。
そして関係が終わったらあの男のところに行くのだ。
「……俺が、名前を愛してるって言っても?」
『………!あ、い…してる?』
このまま愛の言葉を紡がないままでいると、本当に彼女の身体も心も離れたまま帰ってこない。だから、俺はせき止めていた何かが外れたように愛の言葉を轟き始めた。
「こんなに可愛い彼女なんて知らないし、俺のためを想ってやってくれること全部が嬉しかった。」
『…今まで、一回も言ってくれなか、ったのに』
「ずっと思ってたよ。でも……俺らしくなくて、ずっと言えなかった」
『…私ばっかり好きだと思ってた』
「名前がどん引くくらい好きだよ。仕事中も暇さえあればずっと名前の事考えてた。嘘じゃないよ、岩ちゃんに聞いても良い」
必死に弁解するあたり俺らしくない。だけど彼女を繋ぎ止めるためだったら俺らしさなんて必要ない。正直、彼女と会えない期間がこんなにもストレスの溜まるものだとは思わなかった。
『……やっと、聞けた』
泣きそうに安心した表情を見せる彼女は、か細い声でようやく声を絞り出した。
「好きだよ。今まで言えなかったのが、今は本当嘘みたいに言える。好き。」
失いたくない。この愛しい彼女を俺のそばから離したくない。名前を必要としている。ただ隣にいるだけで安心できる場所なんて彼女の隣しかない。
「名前をブスだと思ったことは一回もないよ。可愛いとしか思ったことないから」
一気に押し寄せたほめ言葉の応酬に、理解の許容範囲を超えてしまったらしい。今まで見たことがないくらいの照れ顔を見せてくれた。どんな表情でも可愛い。
『そ、それは嘘だよ!私、本当に可愛くないし…』
「多分、名前をそうさせちゃったのは俺だ。…本当に可愛いし、別の男にとられるんじゃないかって考えたら気が気でなかったよ」
彼女の頬に手をやると、とても熱を帯びているのが分かった。
「それに、自分は俺の夜の相手として不足だって言ったよね」
『それは本当でしょう?徹君、満足に見えなかったし…回数もそんなに多くなかったし、しょうがなく抱いてたのかなって思って…』
「んなわけないじゃん!本当は会う度抱きたかったし、…歯止めが効かないと思ったんだ。お前が可愛すぎるから、俺余裕ないとこ見せたくなくて、我慢してたんだよ。何回俺のおかずになったか分からないだろ!分かんなくて良いよ…もう我慢しないから」
自分で何が言いたいのか分からなかった。ただ、彼女を離したくなくて必死だったことは覚えている。
「だから、もう別れたいなんて言わないで…。不満なことがあったら何でも言って、直すから…!」
『うん…』
こんな情けない姿を見せたのはいつぶりだろう。でもそれくらい必死で、ただ彼女を繋ぎ止めておきたかった。
もうお前を絶対離さない。離してたまるものか。
これからは我慢しないし、言いたいことははっきり言う。
だからさ、覚悟しておいてね。ドロッドロに甘やかしてあげるから。