宮治の場合
私は稲荷崎高校から関東の大学に進学した。そして高校の頃から付き合っている治も同じ大学に進学した。なるべく近い大学にしたいねと話し合った結果、同じ大学になった。ちなみに治の片割れである侑君も同じ大学である。
そしてその出来事は、大学2年生の夏におこった。
『私たち別れた方がいいかもしれないね』
4年近く付き合っていた私たちだが、私が別れを決断するまではとても仲が良いカップルだと思う。お互いの家に行き来するようにしていたし、一緒に寝たり、ご飯を食べたりした。結婚したらこんな感じなのかな、とか気が早いけどそんなことを思った。
でも、あることをきっかけに、私の中での安寧は崩された。
「今、なんて」
『もう、別れよう』
大学で、治のバレーの練習が終わった後、一緒に帰宅する約束をしていた。
それも、今日で最後になるかもしれない。
「なんでや?…もう俺のこと好きじゃなくなったん?」
『違うよ…ただ、治好きな子いるんだよね』
「は?」
『この前バレー部のみんなと話してるの聞いたよ』
これは3日前の出来事だった。なかなか体育館から出てこない治を迎えに行こうとして、体育館に向かうと、部員たちが楽しそうに話している声が聞こえた。そしてその中に治のものもあった。
「俺がキスしてええかって聞いたら、“私からする”なんて言うてあっちからしてきて、可愛くて死にそうになったわ」
「なんで片割れの惚気聞かされなあかんねん。よそでやってや…!!俺が彼女おらんからって、当てつけか!?もうトスあげたらん!!!」
「侑、完全に被害妄想だぞ」
私、そんなことしてない。全く記憶がない。今まで、まだ恥ずかしくて自分からキスをしたことがないのだ。
もしかして、治は私以外の子を好きになってしまったんだろうか。
そのことだけが気になって、頭から離れない。結局来た道を戻って、待ち合わせ場所で落ち着かないまま治を待っていた。あのあと謝りながらこちらに走ってきた治を見たとき、何故か裏切られたように気分になった。他に好きな子ができたんだったら、浮気しないで教えてよ。その日の帰りは、楽しそうに話す治の話を聞くことができなかった。
この3日前の事を伝えて、泣きたいのを我慢しながら治を見ていると、なんの迷いもなく話し始めた。
「それ、お前や」
『え?』
「4日前、名前が寝ぼけてる時、冗談でキスしてえぇかって聞いたら、私からするなんてごっつ可愛え事言うてきたんやで。…ほんまに記憶ないん?」
『…うん』
まさか自分からキスをするという恥ずかしい行動をしていたなんて、思いもしなかった。確かに4日前の夜はとても眠かったので、治と話した記憶があまりない。とても良い夢を見ていたような気がするが。
私一人で勘違いしてたの…?
最悪だ。4年も付き合った彼のことを信じられない彼女なんて。一人で勝手に悩んで、彼に責任を擦り付けて、本当に最低な人間だ。
「ほんまにやめてや…。なんでこんな好きなんに気づいてくれんの」
子犬のようなつぶらな瞳に罪悪感しか残らなくなる。私が一人で空回りをしていただけで、治は何一つ悪くない。
「めいっぱいアピールしてたんやけど。まだ足りんの?ほな本気出していいん?」
『ちょ、待って』
「なんや」
『怒ってないの?』
「別れるって言うたことか?怒るっちゅーより呆れてるわ。自分ほんまに罪な女やで。どんなことされても嫌いにはなれへんもん」
『勘違いしちゃってごめん…』
穴があったら入りたいくらいの勘違いをしてしまった。治はスネながら唇を尖らせている。
「罰として今日はめいっぱい構ってや。そしたら許したる」
『ふふ、それだけでいいの?』
「おん」
4年間付き合ってきて、治が甘えん坊だということに気づいたのは2年目の時だった。私の胸付近に頭を埋めながら、赤ちゃんのようにすり寄ってくるので、愛しさを込めながら優しく抱きしめ返すと、その場で動かなくなった。
私は抱きしめながら彼の頭にキスを落とした。