澤村大地の場合
『大地、あのね、別れて、ください』
途切れ途切れで私の思いを伝えると、大地は眉を顰めた。私はその表情を見た後から、彼の顔を見ることができなくなってしまった。
こんな弱い自分がずっと嫌いだった。
すぐ弱音を吐いてしまうところも、誰かに頼りっぱなしなところも。
「なんでか、聞いてもいいか」
『もう、こんな弱音ばっかの自分嫌なの…。大地にこれ以上駄目なとこ見られたくない…。だから、もう、傍にいられない』
大地の前だと嫌な自分ばかりが出てくる。愚痴ばかりの自分、弱気になる自分。どの自分も嫌で仕方がない。大地はどんな私でも受け入れてくれるから、その優しさに何度も甘えてしまう。
「こっち見て」
今大地の顔を見たら泣いてしまう。そう思って顔を上げられずにいると、そのまま大地は私の肩に手を置いて、ゆっくりと上にあげさせる。涙を我慢するぐちゃぐちゃの顔を見て、彼は幻滅しただろうか。女の子らしくない、でもうじうじして迷惑ばかりかけている自分が大地の傍にいていいわけがない。
「あーあー、こんなに涙流して。泣くくらいなら別れるって言うなよ」
私のすべてを理解してくれているような、そんな口ぶりだった。こんなに包容力のある男性を見たことがない。
『大地ぃ……』
彼は目に溜まった私の涙を、腫れものを触るように優しく拭ってくれた。そのごつごつしていて太い手は、いつも私を安心させてくれていた。
「俺はちっとも嫌な部分だって思ってないから。寧ろ俺の前では素でいてくれてるんだなって思うと嬉しいよ」
彼は癇癪を起した子供をあやすように一定のリズムで私の背中を叩く。大地の前だと、私はただの子供に戻ってしまうらしい。
『私のこと、嫌いにならないの?』
「むしろ今もっと好きになった。正直に言ってくれてありがとう」
『大地、大地ぃ…。好き…大好きだよ…。好きでいてくれてありがとう…』
「俺も、名前が好きだよ。だからもう泣くな」
最近好きだと伝えていなかった。こんなにも大好きなのに、想いを伝えることが怖かった。これ以上彼にのめり込みたくなかった。
だから別れを決断したのに、結局できなかった。大地に好きだと言われただけで、私の気持ちは一気に変わってしまった。
二度と別れる決断なんてできないかもしれない。別れるなんて想像は一生したくない。私にはもうこのまま大地に溺れていく選択肢しか残されていないのだ。
『私より早く死なないでね。お願い』
「俺はいなくならないから。ずっとここにいる」
言葉の一つ一つが優しくて、やっぱり泣いてしまった。もっと大地に見合う女性になりたい。私は今までその努力から逃げていたのだ。
大地のために、私のために変わりたい。
そして、大地みたいに誰かの精神的な支柱になれるよう頑張りたい。
もう、くよくよ悩むのはやめだ。