佐久早聖臣の場合
聖臣は私に好きだとは言ってくれない。
欲しい言葉をくれない。それなのに、3年付き合ってきた。どうして何の障害もなく長年一緒にいることができたか不思議なくらいだ。
もう彼にとっては、私はいなくてもよい存在なのかもしれない。
彼は高校を卒業した今もバレーに励んでいる。私と過ごす時間よりも、バレーに費やす時間の方が圧倒的に多い。彼は暇があっても私に時間を使わないで、自分の時間を満喫している。私なんている意味があるのだろうか。
少し前までは、彼が満足しているならそれでいいと思っていたのだが、最近それでは物足りなくなってきている。
やはり、付き合いたてのカップルのような想いあいに憧れや嫉妬を抱くようになってくるものだ。私たちにそんな甘ったるい時期なんてなかった。いつもおねだりや甘えたりするのは私の方からだった。
このまま付き合い続けても、お互いにいいことなんてない。
きっと私たちは、別れた方がいいのだろう。
『聖臣、ちょっと話したいことがあるんだけど』
ちょうど聖臣が休みで、ソファでバレーを読んでいるタイミングで別れを告げることにした。
「何」
そっけない。バレー雑誌から目を移そうとしてくれない。
『別れよう』
「はぁ!?…なんで」
聖臣は、半ばバレー雑誌を投げる形で叫んだ。予想以上の声の大きさに耳を塞ぎたくなった。冷静沈着が売りの聖臣が泣いてしまう。
『聖臣にはバレーに集中してもらいたいからさ…多分私がいるより、いない方がのびのびできると思うよ。』
「…俺がいつ邪魔って言った」
『言ってないけど…。』
何故ここで渋る必要があるのだろう。嫌いならいっそ早く切ってほしい。余計な期待を与えないで欲しい。
「勝手に思い込むなよ。名前がいようがいまいが、俺の調子が変わるわけねぇから。」
『…いてもいなくても同じなら、いなくてもいいでしょ?』
「……。」
聖臣はこれ以上何も返してこなかった。所詮私の存在とはその程度のものだったのだ。私の3年間はなんだったんだろう。必死に彼に尽くしてきたことがとてもばかばかしく思える。
『急にごめんね、それだけ、言いたくて、今日はもう帰るから。バレー頑張ってね』
私たちは同棲していたわけではないから、私が元いたアパートに帰るだけだ。泣くのを我慢して、小さなかばんを手に取る。
「…いてくれないと困る」
『え?』
「察しろよ…」
声の調子が神妙で、聖臣の方を見ると、久しぶりに私をまっすぐ捉えていた。最近目を合わせてくれなかったから、久しぶりだ。
『なんで困るの…?』
「…飯作ってくれる奴いなくなる」
『それじゃあただの家政婦だよ…』
家政婦になるつもりなんてさらさらない。でも3年聖臣が私を離さなかった理由がようやく分かった。私はただの都合のいい女だったんだ。
「ほんとなんだよ…。…離したくないって言ってんの!」
頭をガシガシと掻いて、にらみつけられる。今までで一番不機嫌そうだ。冷静さを失った聖臣が、乱暴に私のカバンを奪い取ってソファに投げる。そしてそのまま引き寄せられて、抱きしめられた。
『私の事好き…?』
「言わなくても分かんだろ」
『私は聖臣のこと大好きだよ』
「知ってるっつーの」
その自信はどこからくるんだろう。確かに弱気になりすぎた聖臣は見たことがないが。
『好きだから一緒にいたいんだよ』
「じゃあ勝手に離れるな」
『私の事好きじゃない人といてもなぁ』
もう答えは見えていたけど、少し意地悪くごねてみた。
「…言って欲しかったら上見ろ」
『ん』
素直に上を見るとここ最近で一番彼を近く感じた。そしてそのまま、顔が近づいてきて濃厚なキスをかまされた。抵抗も虚しくむさぼりつくされた私は、肩で呼吸をしながら聖臣を睨みつけた。それに動じた様子もないのが悔しい。
「言うとは言ってない」
言われなくてもこんな愛情たっぷりなキスをされたら納得するしかないじゃない。本当にズルい人。