二口堅治の場合
『ねぇ、日曜日のデート覚えてる?』
「あ?覚えてるっつーの」
『それで着てく服どうしようかなって思って』
「どれでもいんじゃね?ブスは何着てもブスなんだから」
『ひど…』
またブス。これでも彼女なのに、ブスばっかり。同じ会社の可愛い女の子(のりちゃん)は可愛いって素直に言うのに。私はなぜこんな扱いをされなければならないのか。
思えば出会った時からそうだった。
ブス、馬鹿なんていうのは当たり前、豚、トド、ゴリラなんて言われたりもした。好きな人にそんな暴言を言われる女の気持ちを考えたことがあるのだろうか。そもそも、こんな口の悪い男を好きになった私も私だ。たまに見せる真剣な顔と優しさに惚れてしまった。なんでこんな男に惚れてしまったんだろう。
『これとかも似合わないかな』
返ってくる答えはもう分かっている。どうせ私が期待しているものなんて返ってこない。
「いやそれはまじでブス。似合ってねーよ全然」
聞かなきゃ良かった。こんなに苦しい思いをするんだったら、付き合わなければ良かった。
私だって可愛いって言われたいし、好きだって言ってもらいたい。私が特殊なわけじゃない。どんな女の子も愛されたいと思ってしまうものだ。
世間の人たちから見た私の待遇は、きっと良くないものなのだろう。考えれば考えるほど頭の整理ができなくなってきて、気づいた時にはポロポロと涙が止まらなかった。我慢している顔は誰が見ても醜くてブサイクだったに違いない。
「は…?」
『ブス、で…ごめん。可愛く…なく…て、ごめん…』
今まで溜まりに溜まった負の感情が突然あふれ出した。可愛いなんて言われたこと一度もない。ブスとかデブとか、普通言われて傷つく単語にも我慢してきた。私はブスだねって言われたくておしゃれを頑張っているんじゃない。あなたに少しでも可愛いねって言われたくて必死にメイクも勉強した。服もどれが映えるんだろうって研究した。全部全部あなたのためだったのに、当の本人がそう言ってくれる気配がないんだったら意味がない。
『もう…、こんなブスとは…、別れた方がいいよ』
このままじゃ私もあなたも幸せにはなれない。堅治が可愛いって、心から尽くしたいって思った子と付き合った方がいい。
涙で前が見えない。もうそれが一番いいのかも。彼の顔を見ることができなかった。
私は何も考えられないまま、部屋のドアノブに手をかけた。すると、ドアノブに伸ばしていた手をガシッつかまれた。
「…待て」
『……。』
「別れない」
堅治らしくない。いつもの覇気がまったくない。
『無理して…、私に、付き合って、くれなくても…大丈夫だから…』
「…ブスじゃねーよ。くっそ、可愛いから困ってんだよ…。
俺、素直に言えねぇの分かってんだろ…」
手を掴む力がどんどん強くなっていく。何かを我慢するようなその口調に、また頭が真っ白になった。
「別れるとか、無理だから」
今、彼は後ろでどんな表情でいるんだろう。恐る恐る彼の方を見ると、とても悔しそうな、だけどどこか恥ずかしそうな表情をしていた。
『私、のりちゃんじゃないよ…?』
「名前じゃなきゃ意味ねぇから。」
『イイ女じゃないよ?』
「たとえイイ女じゃなくても、お前以外の女好きになんねぇし」
『ちゃんと可愛いって言って欲しい』
「…言う、ようにはする」
なにかと必死に戦う堅治がとても可愛くて、噴き出してしまいそうになった。涙はもう引っ込んでいて、私は泣きはらした顔で笑っていた。
「泣いたり笑ったり、忙しい奴」
からかいつつも、私の身体は堅治に包み込まれていた。
別れなくて良かった、いつかそんなことを思えるようになるといいな。