もっと上手に話せたら

次の日。


私はいつもより早めに家を出た。
もろもろの授業の予習をしなければならないと思ったので、家を早く出たというわけだ。


昨日、結局話せたのは隣の席の子だけだった。

弁当は一人で寂しく食べた。
さすがに新学期早々友達がたくさん出来るなんて、夢のような話あるわけがない。


今日からさっそく授業が始まる。


授業が心配なのではない…。
…もちろん心配なのは部活動だ。


片肘をついてため息をつくと、昨日初めて話した隣の子がやってきた。


『おはよう』
「おはよう〜、HRっていつからだったか覚えてる?」

『えーっと、確か…。8時20分からだったと思うよ』
「そっか、ありがと」


昨日も優しく話しかけてくれた隣の子。私は彼女に美優乃の面影を重ねた。…ちょっと似てるかも。


こんな風に、早くクラスに馴染みたいな…。と考えつつ、勉強に取り組んだ。


一生懸命予習に励んでいると、隣でカバンを下ろす音がした。ようやく来た!

ふと隣を盗み見ると、その人は早くも机に顔を伏せていた。
貴方はのび太君ですか!

それにしても、綺麗な髪…。体も線は細いが、意外とガッチリしているのが制服の上からでも分かる。
って私は何を考えているんだ……。もしかしたら、自分は変態なのではないか。


…ん?よく考えてみると…。隣の子は女の子だったハズ…。

改めて座席表をみると、やはり"遙"と書かれている。

つまり、この人は男の人…!?

一気に鳥肌がたった。男の人は、今でもちょっと苦手なんですよ。それでも、凝視してしまった。恐怖心は好奇心に勝てなかったというわけだ。整った顔の呼吸は、規則正しく繰り返される。


「何見てるんだ……」


低めの声が私に向けられた。怒っているわけではないが、低い声だった。

鋭い目が私を捉えている。瞳の中には私が映し出されていた。


『い、いえ!なんでもないです!』


焦って視線を逸らすと、さっきのことはあまり気にしていないようだった。彼は机に突っ伏して再び寝始めた。…それにしても、綺麗な顔だったな。特に目なんかは宝石さながらだった。あまりにも綺麗だったから、吸い込まれそうになった。こんなに綺麗な瞳は今まで見たことがない。


今日は、チラリと彼のことを観察していた。真面目に授業を受けるつもりはさらさらないらしい。彼に友達はいるのだろうかと思うほどに無言。そんな時、私の横に立った男の人がいた。


「ハル、屋上で弁当食べよう。」


優しい声色に、透き通った肌。遙君並にガタイがいいし、座ってでも分かるように身長も大きい。

「……。」

「待ってよ、ハルー」

話しかけられたのにもかかわらず、無言。無愛想にもほどがあるだろう。それでも怯まずに話しかけるこの人はよっぽど慣れているのだろう。同じ中学校で仲が良かったとか?…考えていると、遙君は立ち上がり、教室をでていった。それを追いかける大男さん。やっぱり仲、いいのかな?


それよりも、私も早く弁当食べなきゃ!誰かと一緒に食べようとして、周りをキョロキョロするけど、みんな割と早くグループを作っていた。あぁ、出遅れた。また去年のトラウマが蘇る。


「苗字さん、一緒に食べない?」

『ほ、ほんとに?』
「うん、食べよ」


感傷的になっていると、4〜5人のグループの仲から顔を出した隣の席の子が話しかけてからきてくれた。あぁ、本当にあの席で良かった。私はぎこちなくそのグループに用意されてあった椅子に座った。

「弁当箱可愛いね」

『そうかな?ありがとう、…えっと』

「私は華だよ、それでこの子が桃で、こっちの子が矢那…」

そして、次々とメンバーを紹介するのが華こと隣の席の子。有難すぎる…!なんて気がきくのだろう…。このまま褒められっぱなしも悪いので、勇気を出して私から話しかけることにした。


『名前覚えた、ありがとう!…み、みんなの弁当美味しそうだね。』

必死に噛まないように言ったつもりだったけど…。


「あはは、苗字さん、必死で可愛いな」


褒められることに慣れていない私の顔の体温は一気にあがる。お世辞でも嬉しい。そして、弁当を食べている間は華ちゃんの、美優乃のような優しさに浸った。もちろん他の子も話しかけてくれた。高校二年生の生活は華ちゃんのおかげでうまくいきそうだ。とか、考えてみたり…。


(ハル、眠そうだね)
(……、眠い)
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