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凛side


急に江から連絡が来たかと思えば、今日はあいつらがスクールクラブに行くって?
あいつらとは、俺がガキの頃通っていたスクールクラブの奴らだ。もっと詳しく言えば、ハル、真琴、渚、…そして名前だ。

忘れもしねぇ。あいつらは間違いなく俺の仲間だった。

俺は、少しの好奇心と不信感を背負ってスイミングクラブに向かった。


っは…。まさか本当にあいつらに会っちまうとはな。江の情報は正しかったらしい。


あいつらはちっとも変わっちゃいなかった。あの時みたいに、まだつるんでやがった。俺たちが優勝したのは過去の栄光だろ?今更それにすがって何になる。ほんと、イラつく。そういう能天気なところ。昔から変わってねぇ。ハルだって…実力があるのにそれを才能とも思わないでのうのうと泳いでやがる。

……お前が前を向いて泳がないと、俺だって前に進めねぇだろうが。

そしてその中には忘れるはずもない、あいつの姿があった。
長年想い続けている名前の姿が。

正直なところ名前もちっとも変わっちゃいなかった。
あの頃と変わらない純粋な目でハルや真琴を見ていた。それが俺にとってどれだけ腹立たしかったことか。


同時に、名前を見た瞬間無性に触れたくなった。が一度触れたら止まらなくなるだろう。それだけ俺はあいつが好きだった。今だって気持ちは一つも変化していない。今日会ってみて改めてそう感じた。オーストラリアに行っている間、ずっとお前の事を考えてた。

何してるか、とか病気になってねぇかなとか。俺の心が折れそうになった時はお前の笑顔を思い出してた。どれだけ俺の心の救いになってたかなんて、誰も知らねぇんだろうな。


だが、俺はあえて名前に気づかないふりをしてハルに勝負を仕掛けた。

口には出してねぇけど真琴だってハルだって名前が好きだったはずだ。そんなの同じ気持ちを抱いている俺から見ればバレバレだった。お前らは、目に見えて分かるほど名前を見る目が優しかった。本人は気づいてなさそうだったけどな。

互いに名前が好きなら余計負けたくねぇ。
煮えたぎる闘争心と、今までの時間の穴を埋めることのできない悔しさが俺を熱くさせた。


名前は自分のことよりも先に他人の心配をするやつだった。

そんなあいつのことだから、俺にいないもの扱いされたのは相当辛かっただろう。我ながら酷いことをしたとは思っている。それでも、俺がこんなことをしても簡単に許してくれるのが名前だ。加えてすっげぇ鈍い奴だったから、俺に無視された事を気づいていないかもしれない。

小学生の頃、俺がやんわりと名前に告白をした事があった。

***

「俺さ名前と一緒にいるとすっごく楽しいんだよな!」

『本当に?私もね、凛君と一緒にお喋りしたりするのってすっごく楽しいよ!』
「だったら、大きくなっても…ずっと俺の隣にいて、くれるか?」

小さい頃にしては大人びたことを言ったと思う。今の俺では恥ずかしくて言うことは出来ないだろう。

それに対してのお前の返事は、

『えっ、うん!もちろんずっと一緒にいるよ。あっ、でもずっと一緒にいたら窮屈だからトイレとかお風呂の時は別だからね!あと、ハルも、マコも一緒ね!』

「いや、そういうことじゃなくて………。」
『ん、どういうこと?』
「ハハ、もういいや。何でもない」

***

流石にもう一度同じセリフを言うのは恥ずかしかったので諦めることにした。それに、これ以上言ってもお前には意味が伝わらないと分かっていたから。

お前は俺の言葉の真意になんて目もくれず、真っ直ぐな笑顔で話してきた。お前の笑顔をみるとどうも気持ちが安らぐ。そんな所にも惹かれたのだろう。

常に前向きで、人思いで、俺の求める優しさが兼ね備えられていた名前が今も変わらず好きらしい。冷める事のない熱が俺の心を熱くさせる。馬鹿かよ、勝ちも名前もどちらとも手に入れられるわけねぇだろ。俺は俺のためにどちらかを諦めなければならない。勝ちを手に入れるために、俺はもっと非情にならなければならない。


俺はスイミングクラブを出て、まだ肌寒い外を歩いていく。その後には誰の姿もなく、やはり俺は一人なんだと改めて自覚した。もう誰にも負けねぇ。誰かに頼らないで、一人で戦い続けてやる。

そう誓ったのは澄み渡る星空の下だった。