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コウちゃんとハルがこうして再会するのはいつぶりだろう。暫く会っていなかったから、ハルはコウちゃんのことあまり覚えてないのかもしれない。確かにますます美人になっちゃってるから、初めは気づかないかもしれない。

「そういえば、ハルちゃんは昨日会ってなかったんだっけ。凛ちゃんの妹だよ」

ハルの視線が私からコウちゃんに注がれる。先ほどまで筋肉に見惚れていたコウちゃんは我に返って、挨拶した。

「どうも、お久しぶりです……」

「松岡……コウ」

ナイス、ハル!コウちゃんの表情はパァッと明るくなって声のトーンも上がる。
果たしてハルは、コウちゃんがコウって呼ばれたいのを分かって言ったのか、それとも本気でコウと名前を覚えているか、どちらかは分からない。

「はい!昨日は兄が失礼しました」

「別に」

髪が乾いたハルはついにパーカーを羽織った。そして操られたかのように自然に台所に行き、エプロンを着用した。いつか見た水着エプロンは刺激が強すぎるからね。

ハルなりにおもてなしをするつもりなのだろう。


『あ、まってハル』

連られて立ち上がり、ハルの後ろをついて行く。

「あ、お茶入れるならスルメイカあるよ」
「えー?チョコのがよくない?」
「じゃあ真ん中取って鯖」

「全然真ん中じゃないし!僕も手伝う!」

『んーー、じゃあスルメにしよう』
「名前、裏切ったな……」


鯖を選ばなかった私に対してのハルの視線は、ある意味で痛かった。仕方ないでしょう、おもてなしで鯖って聞いたことないから!それに鯖を愛してやまないのハルだけだし!

『鯖は今度にしよう…ね?』
「…それならいい」

ハルの扱い方はほぼ熟知しているも同然だ。こうして対処すれば、なんの問題も起こらない。しかし、ハルはなんでこんなにも鯖が好きなんだろう。私も鯖は好きだけど、ハルほどじゃない。鯖ばかり食べていたら寧ろ体が悪くなるかもしれないのに、ハルは全く体調を崩さないのだから不思議なものだ。ただ単に、私がハルにとっての鯖のような食べ物にまだ出会えていないだけかもしれない。

とりあえず、注ぎたてのお茶を居間に運ぶ。するとみんなでトロフィーを眺めていた。

「……これって」

「ああ、それは昔四人で獲ったトロフィーなんだけど
……この間凛にいらない、って言われちゃって」


この前のトロフィーのことだ。4人揃ってとった思い出のトロフィーなのに、凛君が簡単に手放した。あの光景は私の良い思い出を壊すのに十分だった。仲間だと思っていたのが私だけだと思うと、胸が苦しくて仕方がない。そのトロフィーの横にはあの頃の写真が飾られている。

こうして昔の写真を見ていると、少しだけ心が安らぐ。何も難しいことを考えなくても良かった幼少期がとても懐かしい。

「……みんな、笑ってる」
「ま、ハルだけは笑ってないけどね」

「ハルちゃんはいつも、心の中で笑ってるんだよ」
「ふふ……、その言い方だとなんか悪い人みたい」


みんなの会話に思わず微笑む。会話を聞きながら台所に戻ると、ハルがスルメを焼く準備をしていた。

「スルメ焼くぞ」
『ん、分かった』


ハルは無表情を保ったままスルメと向き合っていた。スルメが熱さでどんどん丸まっていく。それと同時に香ばしい香りが鼻を掠める。これはいいイカに違いない。

熱が全体に伝わるにように調節しながらイカを裏返す。

「そういえば、凛はこの四年の間一度も日本に帰ってこなかったの?」
「え?毎年お正月には帰ってましたけど……」
「そうだったの!?僕達には何も連絡なかったよ!?」
『私にも連絡なかった…』

定期的に凛君が正月に帰ってきたと聞いた時、とても驚いた。これまで何の音沙汰も無かったのに…。もしかしてやっぱり私達の事嫌いになったのかな?余計な勘ぐりかもしれないけど、そう思わざるを得ない状況になってしまっているのも事実だ。


「……ハル?どうしたの?」
「……」

マコがハルの名前を呼んだので何事かとハルを見ると、先程と表情が変わっている。ほんの些細な変化だが、マコには分かってしまったんだろう。


『ハル?ハル……?…ったぁ…!』

怪訝な顔で覗き込むとおでこにデコピンされた。心配しただけなのにこの仕打ちはなんですか!!

「こっち見るな」
『なんでよ!』

容赦のないデコピンに抗議すると、ハルは知らん顔で視線を逸らした。
やはり何かおかしい?どこか明後日の方向を見ているような気がする。一体どうしたんだろう。

「名前はどうする?もちろん水泳部に入るよね?」
『うん、みんなのサポート頑張る!』

「泳がないのか?」
『んー…、泳がない、かなー?』

苦笑しながらスルメにがぶりつく。別に泳ぐのが嫌いなわけじゃなくて、ただ単にみんなの泳いでいる所が見たいのだ。

「そっか、じゃあこれで一応部員は4人だね!」

テッテレー、と仲間が増えた効果音が聞こえてきそうだ。水泳部設立のメンバーは、ハル、マコ、渚君、そして私だ。なんだか自分も彼らの青春に加われたようで嬉しくなる。以前よりも近い距離で彼らを見守ることができるなんて、夢にも思っていなかった。私の選択に悔いはない。きっと、きっと上手くいくはずだ。