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翌朝、登校していると校門あたりで汗水垂らして、息切れをしている渚君の姿を発見した。同じくちょうど門のところにいた私達は渚君の不可思議な状態に疑問を抱いていた。一体どうしたらそんな状態になるの?とてつもなく長い距離を走らなきゃこんな状態にはならないと思う。ということは朝から長距離をランニングしてきたのだろうか。

「……何やってんだ」

「あ…、ハルちゃん、マコちゃん、名前ちゃん」
『渚君、ひとまず落ち着いて深呼吸…!』
「…うん。スーハー、スーハー………あ!怜ちゃん!」

落ち着いて深呼吸を繰り返していると、渚君はいきなり誰かの名前を呼び始めた。えっと、怜ちゃん?女の子? 渚君が声をかけた方向を見ても、登校してくる生徒が多すぎてどれが怜ちゃんとやらなのか全く検討がつかない。

「あなたが、ハルちゃんさんですね」

必死に顔を知るはずもない怜ちゃんを探すと、相手は既に私の隣に立っていた。だ、男性でしたか。そういえば渚君、男の子にもちゃん付けする子だった。

「…ちゃん付けの上にさん付けはやめろ」
『ハルさんちゃん?』
「それもやめろ」

さん付けの上にちゃん付けをしても駄目なようだ。もちろん冗談だ。

『貴方は怜ちゃんくんだよね』
「それはちゃん付けなのかくん付けなのか…」
『あはは、私は名前です。水泳部のマネージャーをやってます』
「僕は竜ヶ崎怜です」

丁寧に名前を名乗ってくれた。知的にメガネをクイッとあげて美しいポーズ。

「仮入部でよければ、その合同練習行ってあげてもいいです」
「え、ホント!?」

願ってもない申し出に、皆の表情が明るくなる。

「ただし、条件があります」

そして一呼吸おいてから。

「僕は泳ぎません」

渚君の希望の声を裏切るように発せられた言葉。泳がないってどういうこと?ん?っと、つまりは水泳部に協力してくれるってことでいいんだよね?

***

時が過ぎ、とうとう合同練習当日になった。

「やっぱり屋内いいなぁー!」
『そうだね、雨降っても泳げるもんね。水温調整もばっちり出来そうだし』

屋内のメリットはたくさんある。天候に左右されずに出来るし、自由に使えることだ。

「はっ…、さすが強豪校。でも……負けてない……!」

コウちゃんは鮫柄の部員たちの逞しい筋肉を見て目が輝き始める。相手の高校の筋肉も中々だけど、コウちゃんの言ったとおり岩鳶だって負けてない。筋肉の魅力、分かるような、分からないような…。だが、‘私が一番好きな筋肉の部位は’、と言えるようなレベルにはまだ達していない。どこがどの筋肉なのかも分からない事が多いから、私は筋肉フェチとは言えない。

「やぁ、よく来てくれたね」
「あ!よろしくお願いします!」

と、声をかけてくれたその人に、一斉に全員で頭を下げる。多分彼が部長さんなのだろう。予想よりゴツくない部長さんだ。私のイメージであればもっと、こう、ムキムキで厳つい人だと思っていた。

そういえば、部長さんはさっきコウちゃんを見て柔らかく笑った。もしそれが見間違いでなければ、鮫柄の部長さんってコウちゃんに好意を持っているような感じだった。ははん、私の目は誤魔化せませんよ!やっぱりコウちゃんに気があるんですな。

「君、七瀬君だろ?小学校時代、県の大会で何度か優勝してるよね」


いつの間にかハルに話しかけ始めた部長さんを見ていた私の視界の奥には、あの凛君の姿が。凛君の姿を見つけたコウちゃんは、すぐさま駆け寄った。お兄ちゃんが好きなんだなって感じでとても可愛かった。私には到底そんな勇気がない。嫌われているかもしれないという疑惑が払拭されていないから。なんでかなぁ、私なにかしたかなぁ。


「お兄ちゃん!」
「江……何余計な事やってるんだよ」
「凛ちゃーん、また一緒に泳げるね!今日はよろしくね!」

この前あんなに拒まれたにも関わらず、渚君めげずに話しかける。本当に純粋な性格である。そんな渚君が今は凄く羨ましい。私はそんな風にできてない。

「一緒に?…ハッ。お前達じゃ相手になんねぇ…。」

そしてすぐさま渚君の言葉を否定した。私だったら傷つくくらいの否定の仕方。トゲトゲした彼を見て、彼が昔どんな人だったのか忘れてしまいそうになる。

私はこれから凛君をどんなに目で見ていけばいいのか分からない。でも、心のどこかでまだ凛君を信じたいという気持ちは残っている。

何か、こうなるきっかけがあったはずだ。