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怜君が泳げないことに落ち込んでいる間に、既にハルの準備はできていて、ゴーグルを装着していた。

「あ、ハルが泳ぐよ」
「位置について…、よーい!」


ピッ!


滑らかで、流れるような入水。相変わらずハルの泳ぎは美しい。
私もハルの泳ぎに魅了されたうちの一人だ。きっと怜君だって………。と横をチラリと見るとさっきまで座ってどんよりしていたはずの怜君の目は見開かれて、自然のままに立ち上がっていた。


「どうかした?」

「い、いえ……、なん、か……」


怜君の視界にはハルの泳いでいる姿しかない。自分が被っていたタオルが床に落ちたことにも気づかずに、目を輝かせていた。

あぁ、ハルってば本当罪な人。天然タラシだよ、絶対。

『ふふっ』

「何笑ってるの?」


私が微かに笑ったことを見逃さなかったマコが顔を覗いてきた。当然のことながらマコと話す時なんかは、いつもは上に視線が向くわけで。しかし今は、マコが怜君の落ちたタオルを拾ってしゃがんでいるので、珍しく下から覗き込まれている状況だ。下から目線のマコは新鮮だ。


『なんでもないよ』
「………?そう?」

少し疑問を抱いていたけど深くは追求してこなかった。マコは人の感情の変化に鋭い人だから、ちょっとでも油断していると何を考えているかバレてしまう。


「ふふ!ね、だから言ったでしょ。ハルちゃんの泳ぎはすごいって!」

怜君がハルの泳ぎに魅せられているのを確認した渚君は、我が物顔でハルの泳ぎを自慢する。私も一緒に自慢したいくらいだ。


無事に泳ぎ終えたハルがプールから上がると、髪についた水を頭を振って落とす。まるでプールの中にイルカがいるかのような錯覚を覚える先ほどの自由な泳ぎに、怜君は夢中になっていた。

ハルはやっぱり凄いなぁ。言葉じゃなく、泳ぎで、態度で誰かの道標を描く。寄り道なんてしない。真っ直ぐ綺麗な道を示してくれる。そんなハルに怜君は一瞬で魅了された。

それが自分のことのように嬉しかった。


***

今回の合同練習ではいろいろなトラブルがあったけど、本部員にとってはいろいろ収穫があったと思う。怜君がこれからどうなるかはまだ分からないけど、水泳を嫌いにならないでくれたら嬉しいな。


さて、そろそろ帰るぞと荷物を纏めているとコウちゃんの姿がないことに気がついた。あれ?さっきまで隣にいたのに……。そうだ、きっと鮫柄の部長さんに改めてお礼を言いに行っているに違いない。私と違って、本当に出来たマネージャーだ。

それに比べ私は何もできてない。本当に役に立ててない。これじゃあ水泳部に入った意味ないじゃない。……私も何か役にたちたい。私にできることを見つけて、積極的にやっていこう。

それはいいとして、それにしてもコウちゃんの帰りが遅い。

『私、コウちゃん探してくる』
「うん、お願い」

自分の妹同然のコウちゃんの行方が分からないのだ、さすがに焦る。もしかしたら悪い男の人に絡まれて動けないのかもしれない。そうだ、ありえる。ここ男子校だもの。ソワソワしながらコウちゃんの捜索が始まった。


一刻も早くコウちゃんを…。と気持ちが焦って走ってしまったのがいけなかった。

まさか人とぶつかるとは思っていなかった。長廊下の角を曲がろうとした時、誰かと衝突してしまった。相手は吹き飛ばされず、私だけ吹き飛ばされてしまった。

相手が無事で良かったんだけど、さっきの衝動でどうもお尻が痛い。運動不足の上に体もひ弱なんてダサすぎる。

『……イッタタ、タ…。あの、すみません大丈夫ですか?』

「あぁ、そっちは大丈、……夫、か…?」

急に喋りがスローペースになったので何事だろうかと顔を上げるとそこには凛君の姿があった。

『……凛、君』

なんでここで会っちゃうのかな。