今日は部活の朝練がある。荷物のすべてを体育館に持って行くのはダルいので、教室に荷物を置いてから体育館に向かおうとする。

「(苗字名前…)」

あくびをしながら廊下を歩いていると、いつのまにか俺の教室にたどり着いていた。俺の教室では、すでに昨日の話題にあがった苗字がせかせかと勉強していた。早ぇな。

てか、たしか苗字勉強できるのになんでわざわざこの学校に来たんだ?テストでよく名前が上位に挙がっているのを見かけた。わざわざここにこなくても、もっと理想の進路があったんじゃないのか。

わっかんねー。

昨日話題にあがったこともあって少し興味が湧いていた。教室の入り口から遠巻きに苗字を見つめる。

まぁ綺麗な顔してんよな。

他の奴らが見たくなんのも分かるっつーか。

おっと、今は苗字を見てる場合じゃねーや。早く行かなきゃ茂庭さんに怒られそうだしなー。

俺は勢い任せにドアを開け、窓際の三番目の席に乱雑にバッグを置いた。

すると。真ん中の後ろから二番目の席の苗字がビクリと肩を揺らした。そんなに驚くことだったか。

よく見れば、目線が泳ぎまくってる。

あー、もしかして男子とか結構苦手だったりすんのかな。そういえば、男子と楽しそうに話してる苗字見たことないな。

いや、だったらわざわざ伊達工業に入学してこねえよな。
ま、他人の事情は人それぞれだし俺なんかが気にすることじゃねーし。

苗字は授業態度も真面目だし、変に着飾ってねーし、嫌われるタイプでなない。寧ろ厭らしい考えの男子の餌食になっちまうんじゃねーかって思ったことあったな、そういや。近頃の野郎共は飢えてるからな、女に。

ま、せいぜい高校生活楽しめればいいんじゃね。俺は関わることない奴だとは思うけど。

この時はまさか、俺と苗字が関わりを持つとは思いもしなかった。

***

「(あれ、苗字じゃね?)」

あの出来事から暫くが経過した。未だに苗字と話したことはない。話してぇとも思わねぇしいいかなと思った。

相変わらず苗字の方も野郎共とは会話をしている気配がない。毎朝朝練がある度、教室にいる苗字だが、俺たちの間にも未だに会話は生まれていなかった。

んで、今、珍しいことに裏庭で苗字と知らない男が話している。俺は2階からぼんやりとその風景を眺めていた。実はあの場所は周りから閉ざされている場所に見えるが、ここからは丸見えだったりする。俺はたまたま通りがかっただけだが、その光景から何故か目を離せずにいた。苗字が一方的に攻められてる感があるのは気のせいだろうか。

次の瞬間苗字は相手の男に突然抱きつかれていた。うっわ、キモ。そんなとこで抱き合ってんじゃねーよ。

いや、あれはどう考えても抱き合ってはねーな。

やっぱり一方的に抱きつかれてるぞ。

めんどくせーし、義理もねぇけどここはいっちょ助けてやるか。

***

どうしよう、私じゃ男の人の力に敵うがないじゃない。どうしてこんな人気のないところに一人で来てしまったんだろう。舞ちゃんに近くで待機してもらえばよかったかな…。

私に抱きつく男の鼻息が荒くなっている。

『…あ、あ、の!そろそろ離していただけないでしょうか?』
「あ?嫌だよ。名前ちゃんが俺の告白OKしてくれるまでは離さねぇ」

面倒くさいよこの人!早く帰りたい、帰らせて。私の体は小刻みに震える。

「お前さぁ、人の女取る気か?」

女子の声じゃないのは誰にだって分かる。誰の声ってまでは分からないけど、きっと助けてくれてるんだろう。

「あ?良いところ邪魔すんじゃねーよ」

全然良いところじゃないですぅ!た、助けてくださいと視線で送る。視線の先には毎朝教室で出会う二口君の勇ましい姿が。

彼はまさに救世主だった。

-まさに救世主

prev|next