「だーから、苗字は俺の女なんだけど。な?」

妙に優しいその声に胸が妙に高鳴る。二口君は嘘をつきながら必死に庇ってくれているのだ。どんな性格の人なのかは分からないが、こうしてなんの接点もない私を救ってくれる勇気があって優しい人なのだろう。

『…うん』
「はぁ?さっき苗字ちゃん男いねぇって言ってたじゃん」

チャラいよこの人。すべて自分中心で回っていると思ってるよ、多分。ますます男の人が苦手になりそうだ。

『…それはっ』
「苗字、偉いな。俺らが付き合ってること秘密にしようって言ったの守ってくれたんだな」

二口君頭の回転早い。よくそんな理由思いつくなぁ。私は先ほどから二口君に助けられてばかりだ。

「って事でその汚ねぇ手離せよ」
「…ッチ。調子乗ってんじゃねーよバーカ」
「弱い犬ほどよく吠えるって本当だったんだな」
「っるせー!」

相手の男の人は悪態をつきながらもしぶしぶその場を離れた。決して穏便とは言えないが、暴力沙汰にならなかっただけ良かったかもしれない。二口君は本当にすごい人だ。私が悩んでいたことを一瞬で解決してくれた。

「行ったな…」

二口君はさっきの男がいなくなったことを確認して、ため息一つ。

『ふ、二口君!あの、…ありがとう』
「別にいいよ。苗字困ってただろ?」
『うん。…二口君が神様に見えた』
「神様って…クッハハ。俺神様かよ、ハハハ」

二口君は喉を鳴らした。初めて見た二口君の笑顔。

キュン。

胸が高鳴った。心臓のあたりがキュッと締め付けられて、彼の笑顔を視界から離さない。

「んじゃ、男には気をつけろよ」

二口君も男。なのに、全然怖くなかった。いつか、彼に恩を返さないと。

***

次の日。

私たちが付き合っているという噂が学校中に知れ渡っていた。

そこで私はクラスの女子から質問攻めを受けた。いつから二口君と付き合ったの、だとか返答に困る内容ばかりだった。私はなんとか誤魔化しきったけど、二口君はどう返答したんだろう。

ここは話し合いが必要だと思ったので、二口君に話をつけようとしたら、彼も同じことを考えていたらしい。

「苗字、飯食いに行くぞ」
『あ、…うん』

どんどん誤解が増えていく。クラスメイトからの視線が痛い。

「あんにゃろ。言いふらしやがったな」

クラスメイトが見えなくなったあたりで、急に悪態をつきはじめた。二口君はとても悪い顔をしている。その目だけで相手を射殺せそうな目だ。言いふらしたのは昨日の男の人で違いない。まさかこんな事を言いふらされるなんて思うはずがない。完全に失念していた。

『ごめん…私のせいで…』

彼には迷惑をかけてばかりで謝ることしかできない。謝る私を見て、動きが固まる二口君。そして、何かを決めたような表情で、私をまっすぐ見てきた。

「俺がやってやるよ」
『何を?』
「苗字の彼氏役」
『彼氏役……?』

彼氏役とはどういう意味だろうか。その言葉だけではいまいち分からない。

「苗字さ、入学してからどんくらい男に告白された?」
『えっと、ごめん覚えてない』

思い出したくも考えたくもない。さっきの男の人もなかなかだったけど、前々回の人はキスまで迫ってきた。なんとか避けて、走って逃げてきたけど、高校って、男の人ってこんなに強いものなんだって改めて分かった。

でも二口君は優しい。別の男の人とは違う。それに、クラスでも随一の格好良さだ。嫌いにはなれない。

「俺もさ、女子にめちゃくちゃ告られてるワケ。んでそろそろ断るのも面倒くなってる」
『うんうん』
「だから、俺と苗字が彼氏彼女役やったら、もう断る必要ないと思わね?」
『…あ、そうだね』

言われてみればそうだ。いちいち告白を断らなくても済む。二口君、考えることがすごいなぁ。もちろんいい意味で!

『あの、お願いしてもいい?』
「別にいいよ。それでちょっとでも楽に高校生活送れるならな」

彼は凄くサバサバしていて、自分の意見を持っている。とても立派だ。

「じゃ、期限はどっちかに好きな奴とか気になる奴が出来たらでいい?」
『う、うん!ありがとう』

こうして私たちの偽彼氏彼女が始まったのだった。

-偽の関係

prev|next