「まず、これから役やるってのに、互いの事知らないのはおかしいだろ」
『そうだね』
二口君は案外乗り気らしい。そりゃ女の子からの告白の嵐から逃れられるのだ、嬉しくないはずがない。私だって怖い男の人から想いを告げられるのを避けられるんだ。
だいたい本当の私の姿もわからないのに、安安と告白してくる男の人の気持ちが知れない。自分で言うのもなんだが、私は大して可愛くもないし、目立った特徴があるわけでもない。付き合うなら、もっと舞ちゃんのようなさっぱりとした美人さんの方が数十倍いいはずだ。
じゃあどこに惹かれるんだと思った時、気づいたのは、私自身騙されそうな顔をしていると言う事実だ。性格は温和な方なので、簡単にコロリと騙されちゃいそうだと、中学の時の友達に腐るほどいわれた。その通りで相手の表情の機微などを読み取ることが苦手なため、エイプリルフールなどで何度か騙されてきた。
「ってことで自己紹介。俺からな」
『お願いします』
「二口堅治。誕生日は11月10日。好物はグミ。あ、特にすっぱいのな」
『うんうん』
「そんでバレー部に所属してる」
『毎朝、朝練やってるよね?』
「そ。知ってんだ」
『うん、すごい頑張ってるなぁって思いながら見てたよ。
えっとごめん、確認してもいい?誕生日は11月10日…?好きな食べ物はすっぱいグミ、で合ってる』
「合ってる。苗字は?」
私は自分のプロフィールをかみ砕いて説明する。なんの変哲もないプロフィールだ。
「へぇ。多分覚えた」
正直あまり話を聞いてもらっている感じがしなかったんだけど、大丈夫だろうか。しかし、ここまでしてもらっているのだから高望みはできない。
『あの、二口君は彼女、とかいないの?』
「俺?いたらこんなこと提案しねぇだろ。苗字もいねぇんだろ?」
『うん、だから二口君の提案、凄く助かった、っていうかなんていうか』
ごにょごにょするな私!もっとハキハキ喋るんだ、二口君みたいに!いくら二口君が安全な人だと分かったからと言って男の人だということには変わりがない。多少緊張してしまうことも仕方がないことだと言ってしまえばそこまでだ。
「なら良かった。ってかさー、苗字って男苦手だろ?」
『……!』
バレてる。別にバレちゃいけない事でもないし、それはそれで良かったんだけど。まさか見抜かれてたなんて。多分今後二口君には隠し事はできなそうだ。
『そう、なの。どうしても、目を合わせられなくて』
「どうりで、俺と今日目がそんなに合ってないわけだ」
『ごめん、まだ慣れてなくて』
ハキハキしてる彼と、もじもじしてる私。性格的には正反対。私のもじもじしていて、トロいところを見てイライラさせないようにしないと。
「いいって、これから慣れていけば」
『二口君は優しいですねぇ…』
「ック、何いきなりシミジミしてんの?」
偽カップルと言えど、本当に惚れちゃったらどうするんだろう。男の人が苦手だった私にとっては、今まででは考え難い思考に陥っている。これまで恋とか考える余裕がなかった。そもそも男の人と付き合う、なんて近い距離間になりたいと思ってこなかった。
心のどこかで大学に入ったら自然に恋をするんだろうと考えていたけど、どうやらそれは違うようだ。確信はないけど、私は多分二口君の事好きになる。今でも十分素敵な人だとは思っているけど、今よりもずっとずっと好きになる。そんな気がしていた。