一年後の春

校舎の前には、式を終えた三年生たちと、彼らを見送る家族や在校生が入り混じっていた。
春の陽射しは柔らかいのに、胸の奥は少しだけ締めつけられる。
なまえは人混みの中をきょろきょろと見回していた。

そのとき——。
少し離れた校門のあたり、背の高いシルエットが見えた。
光を受けて茶色く見える髪、まっすぐな背筋。
クリス——いや、なまえにとっては“優先輩”だ。

目が合った瞬間、彼は穏やかな笑みを浮かべた。
片手には、白と青の花束が抱えられている。

「……優先輩!」
人混みをかき分けて駆け寄ると、彼は少し照れくさそうに笑った。
「卒業、おめでとう」
「ありがとうございます……でも、どうしてここに?」
「言っただろ。最後まで応援するって」

差し出された花束に指先が触れた瞬間、なまえの心臓が跳ねる。
花の香りよりも、優先輩の手の温かさが先に意識に届いた。

「……泣くなよ」
「泣いてません」
「じゃあ、笑ってくれ」

彼の声は低く、だけど優しさが滲んでいる。
人混みのざわめきが少し遠くなる。
花束を抱きしめたなまえは、少しだけ笑ってみせた。

「……あの頃の優先輩の目に、また会えてよかったです」
「沢村や、他のみんなのおかげだなもちろんなまえも」
ふっと彼が視線を逸らす。
ほんの少し、照れたように口元が緩む。

別れ際、彼がなまえの肩に手を置いた。
「これからも……応援してる」
「……じゃあ、私も。ずっと、優先輩のこと」

短い言葉だけれど、胸の奥にしっかりと残る温もり。
その日から、“優先輩”という呼び方は、なまえの中で特別な響きを持つようになった。