春の風が、グラウンドの砂埃と一緒にふわりと舞い上がる。
大学生になったなまえは、スタンドの端から視線を送っていた。
目線の先には、白いユニフォーム姿の——優先輩。
相変わらず背筋はまっすぐで、ボールを受ける姿は研ぎ澄まされている。
捕球のたび、ミットから響く乾いた音が胸の奥に心地よく響く。
試合後、優先輩は汗を拭いながらこちらに歩み寄ってきた。
「……来てたのか」
「サプライズのつもりだったんですけど」
「気づいてたよ」
彼は口元をわずかに上げ、スポーツドリンクのペットボトルを差し出す。
「飲め」
一口飲むと、冷たさよりも彼の視線の熱が気になる。
「……優先輩って、相変わらずストイックですよね」
「褒め言葉として受け取っておく」
しばらく他愛ない会話を交わした後、彼が少しだけ真顔になる。
「なまえ。……俺、今も変わらずお前を応援してる」
「知ってます」
「でも今日は、それだけじゃない」
優先輩は一歩近づき、なまえの頬に触れる。
その距離の近さに、心臓が跳ねる。
「……これからは、応援だけじゃなくて、隣にいたい」
その言葉は、花束をもらったあの日よりも甘く、重かった。
なまえは答える代わりに、少しだけ背伸びをして——
「……ずっと、隣にいてください、優先輩」
彼の笑顔は、どんな試合の勝利よりもまぶしく見えた。