グラウンドにはもう誰もいなくて、空はオレンジ色に染まっていた。
最後の部員が帰った後、倉持となまえだけが残っている。土の匂いと、少し涼しい風が混ざって心地いい。
「……今日はずいぶん遅くまで残ってるな」
倉持の声が、柔らかくも低く響く。
なまえは書類を片手に顔を上げる。
「うん、ちょっと整理してたの」
倉持の視線が自然となまえの横顔に止まる。
長い髪の先に夕陽が当たり、影が揺れる。
(……やっぱ、綺麗だな)
心の中で呟いた言葉は、声に出すには重すぎて、胸の奥に沈んでいった。
「なまえ……最近、なんか変わった?」
ぶっきらぼうに聞くけど、倉持の手は少し緊張している。
その手がポケットの縁にかかって、小さく震えているのを夢主は見逃さなかった。
「え……変わったかな?」
少し意地悪な笑みを浮かべて答えるなまえ。
倉持はその笑顔にまた心を揺さぶられる。
視線が離せない。息をするたび、胸が熱くなる。
倉持は無意識に、なまえとの距離をほんの少しだけ詰めた。
「……そうか」
その一言が、どれだけの意味を持つか、倉持自身もまだ分からない。
でも、目の前のなまえを見つめるだけで、心臓が跳ねるのを止められなかった。
「……あ、倉持くん」
呼ばれて顔を上げると、倉持の目がじっと自分を見つめている。
「……なんだ?」
「その……」
言葉が出ない。夕暮れの光に照らされて、二人の影が重なりそうになる距離。
倉持は、やっと小さく息を吐いた。
「……やっぱ、俺……」
言葉が止まったまま、二人の間に沈黙が流れる。
夕暮れの風が、なまえの髪をそっと揺らし、倉持の胸もそっと揺れる。
まだ言葉にはできないけど、二人の心は、確かに近づいていた――。