帰る場所


夜更け、学園の裏門に影が差した。
そこに立っていたのは、数か月ぶりに戻ってきた忍──山田利吉。

「……利吉さん」
小さく揺れる声で呼ばれた名に、胸が熱くなる。

「ひさしぶりですね、先生」
そう言いながらも、わたしはすぐになまえ先生の手を取っていた。
温もりが確かに伝わる。何度も危地を越えてきたのは、この瞬間に触れるためだったのだと思う。

「もう、二度と戻らないかと……」
震える声に、思わず彼女を抱き寄せた。
「戻らないわけないでしょう。わたしの帰る場所は、あなただけなんですから」

――――

生徒たちが眠りについた夜更けの教室。
薄明かりの下で、わたしたちは静かに向かい合っていた。

「利吉さん、本当に無茶ばかりして……」
彼女の視線は、包帯の巻かれた腕に注がれる。
「わたしは大丈夫です」
そう答えながらも、心臓の鼓動は隠せない。心配されることが、どんな戦よりも胸を熱くする。

「……会えなくなるのが、いちばん怖いんです」
彼女の言葉に、息が詰まる。

「先生。わたしがどれだけ……あなたの言葉ひとつで生き延びてきたか、知らないでしょう」
「……そんなことを言われたら、私だって隠せません。私も、利吉さんが戻ってくるのをずっと待っていました」

胸の奥が熱で満ちる。彼女の手を強く握り、低く囁く。
「なまえ。ふたりきりの時は、わたしだけの人でいてくれませんか」

頬を染めて、彼女は小さくうなずいた。
「ええ。必ず帰ってきてください。だって……あなたが帰ってくる場所は、ここなんですから」

わたしたちは迷いなく距離を縮めた。
静かな夜、誰にも知られぬ誓いがふたりの胸に刻まれる。
それは密やかでありながら、確かに燃え続ける灯火だった。