弱音と距離感

放課後、記録ノートを整理していると、
扉の向こうから短い息遣いが聞こえた。

トレーニングルームを覗くと、
クリス先輩が一人で肩を回していた。

汗はかいていないのに、額にうっすらと苦悶の影。

「……大丈夫ですか」

彼は穏やかな表情を作ったまま、「平気だ」と言った。
嘘だとすぐにわかる。

「無理しないでください、なんて言いませんけど」

なまえが隣のベンチに腰を下ろすと、
彼の動きが一瞬止まった。

「でも……心配はします」

少しの沈黙。

やがて、低く抑えた声が落ちた。

「……本当は、怖いんだ」
「……」
「二度と、あのポジションに戻れないんじゃないかって」

なまえはただ黙って隣に座り続ける。

彼はそれ以上弱音を吐かず、
少しだけ視線を向けた。

「こうやって話せるの、みょうじくらいだな」

その言葉が、胸の奥にじんわりと広がる。

この距離、この沈黙。

きっと壊れやすくて、でも守りたいものだ。