甘い初夏の余韻


体育館の廊下で、優は彩子先輩と並んで歩いていた。
「男の人って単純だよね〜」と彩子がくすくす笑う。
「宮城先輩のことですか?」
優は少し赤くなりながら頷く。
「あと、桜木花道もね!」と彩子と盛り上がる恋バナ。
その会話を横で聞いていた洋平が、チラりと優を見ていることに気づき彩子はある答えにたどり着く。
ニコッと笑って、「優ちゃん、彼氏いるの〜?」と軽い調子で聞いてくる。
その瞬間、洋平の耳がピクリと動く。視線は前を向いたまま、だけど明らかに返事を待っている。

「……いません」
恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら、優は小さく答えた。

洋平はその横顔をちらっと見て、思わず口角が上がる。
「そっか」――何気ないひと言のはずなのに、声がほんの少し柔らかくなっていた。

優の心臓は、自分でも驚くくらい早く跳ねていた。
(優ちゃんも、水戸くんもわかりやすいわねー)なんて微笑む彩子は「先に行ってるわねー!」と部活へと向かう。

優は真っ赤な顔を両手で仰ぎながら、こっそり胸の鼓動を落ち着けようとした。
けれど洋平の横顔を盗み見た瞬間、また一段と跳ね上がる。

(……ずるい。そんな笑顔、反則だよ)

夏が始まりそうな風が吹き抜ける。
小さな会話のひとつひとつが、いつのまにか特別な思い出に変わっていくのを、優はまだ気づいていなかった。
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