守りたいひと


体育館の空気が一瞬にして凍りついた。
三井が鉄男とその仲間たちを連れ、ずらりと並び、部活中の部員やマネージャーを睨みつけている。

殴り合いへと発展し、優は足がすくんでいた。

「……何やってんのよ、あんたたち!」
強気な彩子が一歩前に出る。その凛とした声が体育館に響いた。

だが、不良のひとりがニヤリと笑い、拳を振り上げる。
「うるせぇんだよ、女が!」

振り下ろされる拳――

「彩子先輩!」
優は反射的に飛び出し、彩子の前に立ちはだかった。

ゴッ、と鈍い音を覚悟したその瞬間。
髪を掴まれ、頭を後ろへ引き倒されそうになる。
(やっぱり……怖い……でも、彩子先輩に当たるよりは……!)

その一瞬の覚悟の中で。

――ドォンッ!!

勢いよく開いた体育館の2階から桜木軍団が雪崩れ込んできた。
野間、大楠、高宮、そして水戸洋平。

水戸はすぐに状況を捉えた。
そして、目に飛び込んできたのは――不良に髪を乱暴に掴まれている優。

その瞬間。
水戸の全身から「冷静さ」が吹き飛んだ。
普段は飄々として笑っている男の顔が、怒りに歪む。

低く、殺気を帯びた声が落ちる。
「……その女に、手ェ出すな」

――ゴッ

誰も見切れない速さで水戸の拳が突き抜け、不良を壁際まで吹き飛ばす。
床に叩きつけられた衝撃音が響き渡り、体育館の空気が震えた。

「な……」
「洋平……?」

桜木軍団すら、一瞬息を呑んだ。
「……あんなキレ方する洋平、初めて見たかも……」
花道が呟き、野間と大楠と高宮も青ざめながらうなずく。

水戸の目は完全に据わっていた。
敵に向ける視線は刃物のようで、優ですら一瞬ゾクリとするほど。

だが、次の瞬間には不良を振り払って駆け寄ってきていた。
乱れた優の髪をそっと払い、震える手、震える声で確かめる。

「……バカ。なんで前に出た」
「もし本当に殴られてたら……俺、絶対許さねぇからな」

顔を上げさせるように、真剣な瞳で覗き込む。
「ケガしてねぇよな? ……答えろ、優」

ただの確認じゃない。必死で、どうしようもなく心配してる声。
胸の奥まで突き刺さって、優も必死に「大丈夫」「それより、彩子先輩が……!」と答える。

かろうじてそれだけ答えると、水戸はふっと息を吐き、肩の力を抜いた。

けれど――優の心臓はさっきの怒声と、この真っ直ぐな眼差しに焼き付けられて、もう落ち着きそうになかった。

(……『その女』って。私のこと……?)

目次

3939.

*前次#
ページ: