はじめての『おやすみ』


「……私も……洋平くんに、勘違いしてほしくなかった」
その一言で、水戸の目が大きく見開かれた。
そしてふっと笑って、肩の力が抜けたように息を吐く。

「……そっか。よかった」
言葉は短いのに、まるで心の奥まで響いてきて――胸が熱くなる。

沈黙が落ちる。
でも、もう気まずさなんてなかった。
木漏れ日の中で、ただお互いを見ているだけで、十分だった。

ふと水戸がポケットを探るようにして、気恥ずかしそうに口を開く。
「なぁ……番号、教えてくれねぇ?」

鼓動が耳に響く。
(……夢じゃないよね?)

震える指先で、そっと携帯を取り出す。
画面を交換し合う手がほんの一瞬触れて、優は慌てて視線を落とした。
けど、水戸の横顔は――ほんの少し、嬉しそうに笑っていた。

「……これで、もう会えなくても困んねぇな」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられて、思わず笑みがこぼれる。

「……うん」
それだけで、涙が出そうなくらい嬉しかった。

家に帰ってからも、優の胸はずっと熱いままだった。
手にした携帯を開けば、さっき登録したばかりの名前――「水戸洋平」が画面に並んでいる。
(……夢じゃない。ほんとに、繋がったんだ)

布団に入っても眠れず、思わずメッセージ画面を開く。
指先が震えて、なかなか文字が打てない。
「……えいっ」
小さく息を吐いて送ったのは、たったひと言。

『おやすみなさい』

送信ボタンを押した瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
(返事……くるかな)

数秒後。
画面がふっと光る。

『おう、おやすみ』
そのあと、ちょっと間を置いて――
『いい夢見ろよ』

どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい……!
枕に顔を埋めながら、優は心臓の鼓動を必死に落ち着ける。


瞼が落ちる直前まで、携帯の小さな光が優しく照らしていた。
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