スクリーンより眩しい


映画館のロビー。
チケットを手にした優が、小さく目を丸くする。
「……カップルシート?」

思わずつぶやくと、隣の水戸洋平が視線を逸らして頭をかく。
「空いてたのがそこしかなかったんだよ」
耳の先まで赤いのが、嘘か本当かを物語っている。

(……ほんとに? でも……嬉しい)
優の胸は期待と緊張でいっぱいだった。

館内は暗く、椅子には肘掛けがない。
自然と二人の距離は近づき、肩や手が触れ合うたびに、心臓が跳ねる。
ポップコーンを口に運ぶ手すらぎこちなく、
「(落ち着け私!)」と心の中で叫ぶ優を、
洋平は横目で見ながら「(かわいすぎるだろ……)」と必死に冷静を装う。

映画のクライマックス。
切ない場面に、優の目から涙がこぼれる。
その瞬間、洋平が迷いなくハンカチを差し出した。
指先が重なり合い、ほんの一瞬止まる二人の時間。
スクリーンの光に照らされた優の横顔に、洋平の胸はさらに熱くなる。

やがてエンディング。
館内に明かりが戻ると、優は小声で呟いた。
「……心臓持たない……」
洋平は不意に笑って、同じくらい小さな声で返す。
「……俺も」

***

映画館を出て、夜風に頬を撫でられながら二人並んで歩く。
「泣けたね……あのシーン」
「お前、けっこうボロボロだったぞ」
「や、やめて! 恥ずかしいから!」
頬を真っ赤にして抗議する優に、洋平は小さく笑う。

ふとした沈黙のあと、優がぽつりと漏らす。
「……でも、一緒に観れてよかった」
その言葉に、洋平は立ち止まり、照れ隠しのようにポケットに手を突っ込んだ。
「オレも。……なんか、今日すげぇ特別だった」

二人の歩幅が、自然とぴたりと揃う。
その夜の記憶は、スクリーンの物語よりも、ずっと鮮やかに心に刻まれた。
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