私の場所
夏の夜風が、二人の帰り道を優しく撫でる。
街灯の光が水たまりに反射して、ふたりの影を長く伸ばす。
「そういえば、海南の清田信長ってやつ、優の幼馴染なんだっけ?」
水戸くんの声に、優は小さく頷く。
「うん、そうだよ」
「……正直、応援したいか?」
水戸の目は少しだけ心配そうに揺れている。
優は迷わず答えた。
「しない」
声に迷いはない。胸の奥で、湘北への信頼と水戸くんへの想いが静かに燃えているから。
「だって、私、湘北のバスケ部が大好きだよ」
その一言に、水戸くんは足を止め、しばし沈黙する。
そして不意に、手が伸びて優の頭をぽん、と撫でる。
その柔らかさに、優の心臓はまた少し早鐘を打つ。
「愚問だったな」
低く、でも少し照れたような声。
「だよー、それに洋平くんがいるところが、私の場所だよ」
水戸くんの目が、じっと優を見つめ手を取る。
その瞳は強く、優しく、でも誰にも見せない特別な感情で溢れていた。
優も、思わず手をぎゅっと握り返す。
「…もう、絶対離さない」
水戸くんのその言葉に、優は小さく笑いながら涙ぐむ。
「私も、離さないよ、洋平くん」
夜の静けさが、ふたりを包み込む。
小さな手の温もりと、胸の高鳴りだけが、この瞬間の全てを証明していた。
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