◇8

案内人(ナビゲーター)のバスに揺られて試験会場へ着いたのも束の間、一次試験は意外な形で幕を開けた。
「二次試験会場まで私について来ること」
そう言い残して奥へ歩き出す試験官のサトツさん。その速度は徐々に加速し、ついに私達が走るしかないスピードまで上がっていた。
受験者の足音と荒い息遣い、荷物や武器のこすれ合う音が、薄暗い地下道に延々と繰り返される。それに混じって私の胸元では、左胸に留めた受験番号のプレートとネックレスがぶつかり、カツカツと規則的な音を立てていた。
私の受験番号は「98」。一緒に会場へ着いたキルアは「99」。
この差になんの意味もないのに、遊び半分でキルアを出し抜いて先にプレートを受け取ったのは大きな選択ミスだったと後悔している。
だってそのせいで私はトンパさんからいただいたジュースをキルアにひったくられたから!
「このあとどんな試験がどれだけの時間あるか分からねーのに、不用意に水分摂って大丈夫なわけ?女子ってそこらへんでトイレすんのに抵抗ありそーだけど」
とキルアに言われ妙に納得してしまいジュースはあげちゃったけど、こんなに走ることになるならやっぱり水分補給しとけばよかった。
文句を言おうにも、当の本人はスケボーですい〜っと先に行ってしまい、姿はもう見えなくなっていた。

走っているうちに音が気になり、上着の裾あたりへプレートを付け替えながらいろんなことをぼんやり考えた。バスの中の出来事を思い出したり、ゴールまでどれくらいだろう、試験はあと何個あるんだろう、とか。
そして、何より気がかりなのはおとものことだ。
試験会場の入口はまさかの定食屋さんで、しかもこんなに移動するとは思っていなかったから、飲食店には連れていけないとおともをお店の前で待機させてしまった。

『危なくなったり、はぐれたりしたら絶対帰りなさいよ!』

出発のときにしっかり言い聞かせたつもりだけど、ちゃんとばーちゃんのところまで帰れたかな。遠くまで来たから帰り道分かるかな。

そんなことに思いを巡らせていたら、ふと前方に白っぽいふわふわしたなにかを目が捉えた。走る速度をちょっぴり上げ、近づいてみる。
「スケボー、使ってないなら私に貸してよ」
それが、どういうわけか乗っていたスケボーを降りて走っているキルアの後頭部だと分かるや、急いで彼に並んで声をかけてやった。
「げ、なまえ!ヤダね」
「私のジュースあげたじゃない!」
「あれはプレートとチャラだろ!つか、ジュースは感謝してほしいくらいなんだけど」
すると眉をひそめるキルアの隣から、まん丸な瞳がぴょこっと顔を覗かせた。
「キルアの友達?」
キルアと同じくらいの歳だろうか。トンガリ頭の男の子は人懐っこい表情で私とキルアを交互に見比べた。



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