◇11

地下トンネルを抜けた先に待っていたのは、霧に覆われただだっ広い平野だった。
「ここが二次試験会場……?」
「ううん。まだ先だって」
「えー!」
出口の近くで声をかけてきたのは先に到着していたゴンだ。隣のキルア共々、周りにいる他の受験者よりけろっとした顔で次の指示を待っている。
二人の底なしの体力には感心するが、私はそうもいかない。トンネルを走り抜けて緊張が途切れたのか、左脚の傷の疼きと一緒にどっと疲れが押し寄せてきた。さらに先の道のりを考えるととても立っていられず、私はその場へ座り込んでしまった。
ため息をついて地面に視線を落とす。すると足元にさっと影が差し、何かが地面に落ちてきた。風にふわりと舞い落ちたそれを手に取る。10センチほどの細長く黒い物体は――鳥の羽だった。
「おとも?!」
紫がかった照りのつやつやした輝き。自然界で育った個体にこんな色は出せやしない。 思わず叫んで空を見上げると、霧の中から降りてきたのは紛れもなく私の相棒、おともだ。その小さな体は霧に濡れて少し震えているようだった。
「なまえちゃんのペットか?」
「ペットじゃなくて相棒!」
肩で息をしながら近づいてきたレオリオへ即座に釘を刺す。そして私の腕にとまったおともともう一度向き合った。
どうして?どうやって?
目の前の相棒に対して疑問はたくさんあるけども、私の腕に止まりぐるぐると鳴いた声は弱々しく、胸の奥がきゅっと締めつけられた。

もともとカラスの縄張りはそんなに広くない。
だからドーレの外へ出るのだっておともにとっては負担だろうに、知らない土地をたった一羽で、こんなに長いこと飛んできたなんて。
「遊びに来たんじゃないって言ったでしょ。この子ったら、どうして言うことを聞いてくれないの?」
「なまえが心配だからだよ」
リュックを背負い直したゴンがにっこり笑った。
「おともは遊びじゃないってちゃんと分かってる。だから、なまえのこと助けたいって追いかけてきたんだ。自分は相棒だから。って」
おともがひとしきり鳴き終えた後、また口を開いたゴンの言い方はまるでおともの通訳をしているみたいで、びっくりして聞き返した。
「何言ってるか分かるの?」
「鳥言語はちょっとだけ分かるんだ。あとここまで来れたのはモグラに聞いて回ったんだって!オレ達が走り出したのに合わせて地面が揺れたのを追ってきた、ってさ」
「そう、なんだ」
くちばしを優しくつつくと、おともが甘噛みで返してきた。力加減が強くてちょっぴり痛いのも、今はなんだか嬉しくさえ感じる。
おともはペットじゃなくて相棒だ。そう何度も言っておきながら、本当にバディとしての覚悟が足りなかったのは私の方だったかもしれない。
そこまでして追いかけてくれたのなら、私のかけるべき言葉は「帰りなさい」じゃなくて。
「本当に危なくなったら逃げてほしいけど……それまでは私のこと、助けてくれる?」
私の問いに、おともは元気よく羽を広げて一鳴きした。

「よーっし!じゃあおとも、この後もまだまだ走んなきゃだから今のうちにお水飲んでおいで!」
小さなふわふわの頭を思い切りカキカキしてから空に向かって腕を振る。
すると急に地下トンネルの出入り口からモーター音のようなものが鳴り響き、飛び立ったおともの羽音に絡みついた。
薄暗い階段の向こうでは地上まであと数段の場所にいる受験者が這いつくばり手を伸ばす。その眼前で巨大なシャッターは無情にも閉じられたのだった。



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