◇15

ゴン、クラピカ、レオリオとの出会いを経て、いろいろありつつも一次試験を辛うじて突破。その後の二次試験は試験官の一人であるメンチさんの暴走であわや全員不合格の危機だったけど、試験会場に現れたネテロ会長のおかげで再試験となり、これも無事合格。
そして今、三次試験会場へ向かう飛行船は星空の中を静かに泳いでいる。

試験が始まってから久々に訪れた自由時間。
私は飛行船の中をぐるりと回り、廊下にある人目につかないすみっこのベンチを選んで腰を下ろした。
お行儀が悪いのは承知の上で、靴を脱ぎ、ベンチの上に三角座りをする。
「うげぇ……」
そっとスカートを膝までめくると、バスの中でキルアに巻いてもらった左ふくらはぎの包帯は血が滲んで赤く染まっていた。一次試験で階段をのぼっているあたりから痛みが増したので、あのへんで傷口が開いてしまったのだろう。
誰かに見られる前に――というか、まず自分の気が滅入るのでさっさと取り替えてしまおう。見ているだけでなんだか余計痛む気がするし。
そう思って周りに人がいないのを確認し、包帯を解き始めたのだけれど、運悪くその最中にふてぶてしい足音が背後から聞こえてきた。
「お。なまえ」
急に名前を呼ばれ、体が跳ねる。振り返った先には背中を丸めたシャツ姿の男が、大きなあくびをしながらこちらに向かって歩いていた。
「なぁんだ、脅かさないでよレオリオ〜。どうしたの?」
「ウンコ。……ってお前こそどうしたその足!」
飛行船に乗り込むなり『とにかくぐっすり寝たい』と言って休憩場所をクラピカと探しに行った時と変わらず眠そうな目をしていたレオリオだったが、傷を見るなり腫れぼったいまぶたをパッと見開いて、私の足元にしゃがみ込んだ。
「ヒソカにやられたのか?」
「ううん。試験会場に来る前、ちょっとヘマしちゃって」
「これ、消毒はしたんだろうな?またわけわかんねー葉っぱで済ましたりしてねーよな?!」
矢継ぎ早に繰り出された質問に、私は何とも言えず口を閉じた。
バスの中ではとりあえず止血するのに包帯を巻いただけ。そのあとは会場に着いて試験が始まり、今に至る。落ち着いて手当てする時間なんてあるはずがない。
「刃物がちょっぴりかすっただけだよ。大丈夫!」
「刃物?! 余計ダメだろ!!ったくよー」
レオリオは深々とため息をつき、険しい顔で立ち上がると、私のおでこに指を突きつけた。
「いいかなまえ、ここから一歩でも動いたら絶交だからな」
そう言い残し小走りにどこかへ消えた彼は、しばらくして自分の手提げカバンを持って戻ってきた。
「ほら。見せてみろ」
あの独特な薬品の匂いがまた漂ってくる。
ベンチに座る私の足元に片膝をついたレオリオは、カバンから慣れた手つきで消毒薬や新しいガーゼ、包帯を取り出した。
「大丈夫だってば」
「言うことを聞け。傷口の感染症はナメたらどえらい目に遭うんだからな。マジで」
「……包帯は、自分で持ってる」
思いがけない迫力に気圧されて、差し出す気は無かった左脚とポシェットの包帯をレオリオに託し、私はされるがままぼんやり手当ての様子を眺めた。

誰かに包帯を巻いてもらうのは2度目だ。最初はキルアに。そして今度はレオリオが手当てをしてくれている。バスの中で見た光景とほぼ同じ状況の今だけど、目に映る「手」だけはキルアと全然違っていた。
太い指、平べったい爪。その武骨な手が淀みのない動きで処置を施してゆく。
男の人の手って、こんな感じなんだ。そう自身の脚に触れる感触を意識すると、なんだかむず痒い気持ちが胸に広がった。

「んだよ」
私の視線に気付いたレオリオと目が合って、急に気恥ずかしくなり横を向いた。
「お人よしだなーって思っただけ。私の手当てしていいの?同じ試験を受けてるライバルなのに」
ハンターになりたいなら競争相手は一人でも少ない方がいいし、ケガなんて絶好の蹴落とすチャンスだ。なのにわざわざ敵に塩を送るようなことをして、よっぽど受かる自信があるのか、私を見くびってるのか。
そんなニュアンスのことを伝えると、返事は人を小馬鹿にしたような笑い声で返ってきた。
「なまえに言われたかねえよ。クラピカから聞いたぜ、ゴンとオレを逃がそうとしてヒソカと戦り合ったんだって?」
「ご……ゴンのためだよ!私はね、子供はぜーったい放っておきたくないの!」
「あっそ。それにな、もう今更見ず知らずってわけでもねーだろ。オレ達」
これでよし、とレオリオの手が離れた。見てみると左脚の包帯は綺麗に巻き直されていて、軽く動かしても緩む様子は微塵もない。何がどう違うかは分からないけど自分でするのとは大違いだ。
「すごーい!さすがお医者さん志望!」
「このくらいではしゃぐなよ」
むすっと顔を背けたレオリオからはどう見ても照れが滲んでいて、つい頬が緩んでしまった。

最初の馴れ馴れしい距離感や態度には戸惑ったけど、レオリオって案外良い人なのかも。
親友の病気がきっかけでお医者さんを目指したり、いくら接点ができたとはいえ無視できたはずの私を手当てしてくれたり。うん。そう考えるとあったかい人だよね。
「レオリオ。ありがとう」
「……おう」
しかしその考えはすぐに打ち砕かれることとなる。



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