◇16

カバンを閉じ、ふと顔を上げたレオリオは手当てが終わったにも関わらず片膝をついたまま不自然に体を傾けている。
しばらくしてその意図に気付き、私はスカートの裾をギュッと抑えて叫んだ。
「今!スカート覗こうとしたでしょ?!?!」
チッと舌打ちしたレオリオを見て自分の予想が確信に変わる。
撤回!撤回!全っ然良い人なんかじゃない!!
「さいってぇ!!」
「なんだよ。手当ての礼くらいもらったってバチは当たらねえだろ」
しかも私がこれだけ怒っているのに、謝りもせずいけしゃあしゃあとこんなことまで言い出す始末。お腹の底からくつくつと怒りが湧いてくる。が、左脚の包帯が目に入ると心の中はどうにも複雑だった。
スカートを覗こうとしたのが目の前の男なら、自分のカバンを持ってきてまで私を手当てしてくれたのも同じくこの人だ。ナンパまがいで話しかけてきたのも。お医者さんになって病気の子供を無償で治したいと言ったのも。
――何なのこの人!
一日で得たレオリオの情報を並べるともう訳がわからなくて、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまった。

「……そうだね、お礼はちゃーんと返しておかないと」
私は首にかけていたネックレスを外し、レオリオの両手を掴んでグイッと引っ張った。
「何すんだよ!」
「お礼にレオリオがハンター試験が上手くいくよう『お祈り』してあげる」
「結構だ」
レオリオは薬草を突き返された時と同じ苦い顔をしてすかさず手を引っ込めた。
「お礼がどうのこうの言ったのはレオリオでしょっ! みょうじの人間は受けた恩義を忘れません。手!」
「てめ! 民間療法信者な上にスピリチュアルまでこじらせてんのかよ!」
押し問答の末、もう一度レオリオの手を強く握ると、今度は小さく唸り声を上げ大人しくなった。
「私はまだ半人前だけど、毎日ちゃんとお稽古してたから大丈夫……なはず。たぶん」
薄いグレーの石が連なったネックレスを親指と人差し指の間に挟み、改めて自分の手をレオリオの手に重ねる。大きな手はじんわりと温かかった。
目を閉じ、深呼吸して、私はばーちゃんの教えを思い返した。

ばーちゃんはハンター試験の時期こそ志望者の選別を手伝っているが、それ以外は祈祷師として依頼者にいろいろなお祓いや祈祷をしている。私も見習いとして手ほどきを受けて毎日お稽古に励んでいたし、ハンター試験の間も言いつけられた1日2回の精神統一は欠かさず行っている。

心を穏やかに保ち、集中させ、その意志を明確に定める。
体を巡るエネルギーを感じ、手のひらから『心の灯を相手に届ける』イメージを思い描く。
レオリオがハンター試験に合格できますように。
もっと具体的に――そう。【レオリオが適切なタイミングで余すことなく力を出し切れますように】

レオリオは決して手放しで好感が持てる相手じゃないけど、それでもお医者さんになるって夢は私の夢にも通じるところがある。だからいい結果になればいいな、と思う気持ちは紛れもない本心だ。

「はいおしまい」
手を離してもレオリオは依然渋い顔のまま、疑いの眼差しで私をじろじろ見つめてくる。
「なんか文句あんの?」
「へっ。こーいう根拠のないオカルトは信じない主義でね。神頼みで合格できりゃあ誰も苦労しねーよ」
「神頼みなんてしてないよ」
「はいはい。じゃあな、オレは寝る」
私の反論は聞く耳持たず、ぶつくさ言いながら立ち上がったレオリオは廊下の奥へと消えていった。



←backnext→


dream top
top