◇18
『生きて下まで降りてくること』
『制限時間は72時間』
そう言われ、塔のてっぺんに放り出されたところから三次試験は始まった。
「あっ、なまえー!」
「なになに〜」
下へ降りる方法を探して何もない屋上をウロウロしていると、キルアとゴンに名前を呼ばれ手招きされた。しゃがみこむ二人に近付いて何を見ているのか覗こうと背伸びをしたのに、目線はなぜか上がるどころか急降下。突然体が床の下に沈み込んだのだ。
助けてぇぇ〜!と全力で叫んだところでどうにかなるわけもなく。目をまん丸にしたキルアとゴンが視界から消え去って、つるりと落ちた先に、今度はハゲが一人立っていた。
どうやら足下に隠し扉が設置されていて、そこから塔の中に入れたようだ。
胸元からぽこっと顔を出し、せわしなく辺りを見回すおともをなだめるように撫でてやる。屋上には止まり木がなかったから、ポシェットに詰め込んだストールをスリング代わりにして抱っこしていたのだ。あーよかった!いつものように飛ばせていたら、また離れ離れになるところだった。
「なんだ女か」
受験番号294番。開口一番、失礼な物言いのハゲは私を見るなり難しい顔をしながらツルツルの頭をかいた。
「はぁ?女で何が悪いのよ!」
キン、と声が薄暗い石造りの部屋に響く。
ハゲが無言で指さした一角には小さいテーブルと壁に案内板が貼り出されていた。
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■ 呉越同舟の道
君達二人は同じ舟に乗り合わせた運命共同体である。
以下の場合両名とも失格となる
・どちらかが死亡した場合
・お互いが5メートル以上離れた場合
また生体管理、距離計測は腕輪にて管理している。
ゴールまでの道のりを同舟相救う精神で互いに助け合い臨むべし。
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テーブルに置かれたタイマー付きの腕輪をはめると、鈍い音が部屋中に響き、壁の一部が開いて扉が現れた。ぴっちりと閉じた重厚感のある扉の両サイド――1人では届きそうにない距離の位置には、レバーが2本取り付けられている。
なるほどなるほど。これ、絶対同時に下げて開けるやつだ。
「試験をクリアするにはあんたと協力しなきゃなんないってことね」
「運命共同体なら戦えそうなヤツが良かったけどな……ま、オレは一般人を連れて戦う訓練も受けてるぜ。『大舟』に乗ったつもりで安心しな、カラス飼いちゃん」
「飼ってないしおともは相棒だしあと私はなまえ=みょうじ!お見知りおきを!」
急にキモい呼び方をされて反射的に言い返すも、ハゲは悪びれた表情一つせず、それどころか高笑いをして無遠慮に背中を叩いてきた。
「おーそうか。オレはハンゾー、しばらくの間よろしく頼むぜなまえ!」
なーんかやかましいし馴れ馴れしいし。しかもさっき「一般人を連れて戦う訓練」って言ってたけど、私をお荷物扱いしてるってこと?
なんなの、腹立つなぁ。てかあの気安く話しかけてきたレオリオだってムダに触ってきたりはしなかったのに。
「……よろしく」
あ、分かった。このモヤっとした気持ちはレオリオに初めて会った時の感覚と似てるんだ。
手を払いのけ足早に片方のレバーへ駆け寄るとハンゾーも扉の反対側へ立ち、レバーに手をかけた。
「せーの、で下げるぞ」
「おっけー」
ムカつくけど仕方ない。私だって次に進みたいし、協力が必要不可欠と言われながら一時の感情で反発するほど協調性の無い人間じゃあない。
「せーの!」
「せーの!」
ガコッ ガコッ ビーー!!
「わぁーッ!!」
タイミングがズレたレバー音の後、けたたましい警告音が鳴り響き、思わずしりもちをついてしまった。
「遅えんだよなまえ!せーの、つったら“の”で下げるだろ普通!」
「普通はせーの、って言い終わってからでしょ?!あんたが早いのっ!」
「ギャアッ!」
ハンゾーを指さして抗議する私に続いて、ストールにくるまったおともも加勢して低い鳴き声を上げる。だよねぇ!同意を込めておともへ目線を下げると、ふとスカートからはみ出した自分の脚に目が留まった。
レオリオに巻いてもらった左脚の包帯部分はギリギリ裾で隠れているが、少しでも重心を後ろにずらすと見えてしまいそうだ。
この試験が終わればハンゾーは元通り、競争相手になる。
怪我が見つからないようにゆっくりと立ち上がり、身繕いをするためハンゾーに背を向け壁際に寄った。
「あ、おい!」
しかしハンゾーはこちらに駆け寄り、乱雑に私の腕を引っ張ったのだ。
「さっきからベタベタ触んないで!レオリオよりデリカシー無いんだからあんたって人は!!」
するとパッと手を離したハンゾーは、開いたその手を私の顔の前に突き付けた。
「5メートル以上離れたら失格なの忘れたか?」
「え?」
見るからに一人では操作できない両端のレバーは多分2メートル、いや、3メートルほど離れて設置されているように見える。そして女性の歩幅は大体70センチと言われているから……。
「わぁぁー!!っぶなー!!」
「お前バカだろ!ほらもう一度やるぞ。“せーの”の、“の”で下げるからな」
一言余計なのよ。と言いたいところをぐっとこらえて頷く。
確かに今のは私が悪かったけど、口で言うとかもっとやりようがあったんじゃないの?私のイライラを代弁するようにぐるる、とおともがストールの中で唸った。
きっとレオリオならあんな乱暴に腕を引っ張ったりしなかったのに。そう思いながらもう一度レバーへ手をかけた。