◇19
最初から雲行きの怪しいチームワークでどうなることかと思ったけど。
自分で『大舟』と言うだけあって、ハンゾーはその後鮮やかな手際で各所の謎解きや試練官との勝負をこなしていた。
順調に下へ下へと歩を進め、やがてたどり着いた扉には最初の部屋と同じようなサイドテーブルと案内板が貼り付けられていた。
【ここで腕輪を外し 扉からゴールへ向かえ】
「やっと出口か。手間かけさせやがって」
「あー疲れたー!」
ハンゾーの後ろから扉をくぐり、ゴール地点となる広間に足を踏み入れる。壁に取り付けられた大きなモニターの時間を見る限り、かかった時間はちょうど12時間と少し。約半日ほどでクリアできたようだ。制限時間が72時間なのを思えば結構優秀だったかも、私達。
「お疲れハンゾー」
「なまえもな」
握りこぶしを突き出すと、ハンゾーはにかっと笑ってグータッチで応えてくれた。
このおしゃべり忍者の話に半日間付き合っていると、実は同い年だとか知らなくていい共通点も知ってしまうわけで。なんだかんだ妙な信頼関係も芽生えるものだ。
私達が到着した直後に違う扉も音を立てた。
そこから姿を現したのは合格者……ではなく、配膳台が4人分の食事を載せて滑り込んできた。先に広間に着いていたのは2人だから、私とハンゾーの分もちゃんと用意されている。メニューは簡素だけれど、試験中何も食べていないお腹は途端に怪獣みたいな鳴き声を上げた。
「……ハンゾー。あっち行って」
トレイを受け取って端っこに座ると、広々とした空間にも関わらずハンゾーもすぐ隣へと腰を下ろした。
「メシくらい付き合えよ。ほとんどオレが合格させてやったようなもんなんだから」
そう言ったハンゾーの視線は先に到着している「2人」へ注がれる。
広間のど真ん中でババ抜きに勤しんでるのはあのヒソカと、301番……顔面に針がいっぱいのブリキロボみたいな人だ。
怖い。たまになんか楽しそうに笑ってるのも更に怖い!あの空間になるべく近づきたくないのはすごーく分かる。
けども、だからって私が一緒にゴハンを食べなきゃいけない理由もない。それにやっぱりこいつの余計な一言は癇に障る。
「あのねえ!言っとくけど最後の部屋は私がいなきゃあんた絶対失格になってたから!」
確かに道中、ハンゾーに突破してもらった場面は多かったけれど、最後に待ち構えていた『毒霧の迷路』だけは完全に私の手柄だったと胸を張って言える。なぜなら充満している毒が毒蛇由来だと見抜いたのは私。そして燻すとその毒を中和できる薬草を持っていたのも知っていたのも、私だから!一次試験の時、おともにくっついていた薬草を見て、移動中他にもいくつか摘んでおいたのが正解だった。
「葉っぱ燃やせば毒が中和されるってさー。あんな眉唾な方法、知ってても普通信じねえしやらねえよ」
ハンゾーは口に放り込んだ栄養食クッキーをふてくされた顔でごくりと飲み下した。
「なまえんちってまさか"自然派志向"的なやつ?」
「どうして素直に「あなたのおかげで助かりましたありがとうございます」って言えないの?!てかそれ、レオリオにも言われたんだけど」
"自然派志向"
聞き覚えのあるフレーズがもやもやと一次試験が終わった時のことを思い出させる。
あの時もレオリオの顔の傷を心配して薬草を渡したのに、そんな感じの言い方でヘンな人扱いされたのだ。
「スーツ着たデカいヤツだっけ? レオリオって」
話を広げようとするハンゾーがめんどくさくなってきて、ちらりと視線を送った後はクッキーを小さく砕いておともにつつかせながら、完全に気の無い振りをした。
「だってお前、なんかっちゃあオレのことアイツとばっか比較するじゃねーか!」
「は?そんなことないし」
「いーや、ある!」
だって頻繁に引き合いに出すほどレオリオとの付き合いは長くないし知っているわけでもない。だいたい、いろんなことがありすぎて時間の感覚がおかしくなるけどレオリオと知り合ったのはほんの数日前なんだから。
「もう疲れたから寝る!ほら離れてってば!」
急いで食事を済ませると、私はストールを被って横になった。よく分からないけどじわじわ胸の奥がざわついて、とにかくこの話をしたくない気分になったのだ。
「スカート覗かないでよ」
「覗くかよアホ」
だってレオリオは。
と言いかけて、口を閉じる。またなんか言われたらムカつくから。