◇20

本当に寝るつもりはなかったけれど、体を横たえたらどうすればいいのか、私のまぶたはちゃんと知っていた。
しばらくすると埃っぽい風が私を揺すって、目を開かせる。
痩せた土。ひび割れた土壁の建物。瓦礫と弾痕。体を起こすと、お世辞にも美しいとは言いがたい故郷の景色に浮かんでいたのはかつての仲間達だった。
珍しい。私、『夢』を見ているんだ。と頭では分かっていても、あまりにもリアルな質感に戸惑いを隠せない。私が一歩後ずさるたびに彼は、彼女は、小さな手を必死に伸ばし、口々に「助けて」と私に求めた。
熱が下がらず動かなくなったブルーベル。
背中の怪我が悪化して息が出来なくなったブラックベリ。
忘れもしない。みんな私が見送った仲間達なんだから。だからこれは『夢』で――本当に?
ぐらりとめまいがして、開いては閉まる自動扉の向こうで伸ばされた手が焼け落ちてゆく。やめて。置いていかないで!身を乗り出すも、指先から強烈な痛みを伴って、全身はたちまち感電死のような感覚に陥った。

ガァ。
目を覚ますと鋭いくちばしで私の指をついばむおともが目に飛び込んできた。
「いったーい!!」
目覚めの微睡みを楽しむ間もなく跳ね起きて手を引っ込める。
「なにすんのよおとも!!」
自分が怒られているのを理解している、妙に可愛らしい上目遣いの周りには、よくよく見るといつの間にやら私がヌメーレ湿原で摘んできた薬草が散乱していた。
「……ゴハン、半分こじゃ足りなかった?」
落ちてる葉が食い散らかされているところを見るとお腹が空いたんだろう。無理もない。支給された食事は必要最低限の量しかなかったし、待機しているゴール地点は密室だから食べ物を探しにどこかへ飛んでいくことも出来ない。というわけで私が寝ている間にポシェットから大ドロボウしたわけだ。
「一緒に木の実も採ってくればよかったねぇ」
手の付けられていない薬草はすぐさま回収して、散らばってる他の葉は樹液みたいなもので汚れた数枚を取り除いてから、残りを一枚ずつ食べやすいようにおともの口元へ持っていってやった。ちょっとでもお腹が膨れるなら食べたらいい。

懸命につっつくおともをぼーっと見守りながら、さっき見た夢を漠然と思い出した。
たらればの話をしたって死んだ人間は戻らない。分かっていても生前の仲間達が命を落とさずに済んだ未来をどうしても考えてしまう。
例えば……レオリオが言ってたようなお医者さんにあの時出会えていたら、とか。

そういえば!
ぺたんこ座りを少し崩して左脚を確認する。
半日間トリックタワーの中で動き回り、今までぐーすか寝た後も包帯はぴっちりと巻き付いたままだ。
なんだかんだレオリオに手当てしてもらってから丸一日は経ってるし、そろそろ替えた方がいいかな?というかもう痛みもないし血も出ていないから取っていいのかも。
と、色々考えたけど、結局なにもしないことにした。
理由は単純。レオリオが降りてきたらやってもらえばいいやって思ったからだ。

ゴハンを食べて、寝て、ヒマになって、おともとじゃれあって、日課のお稽古をして、残り時間を確認して、またゴハンを食べて、ヒマになって……。

そしてあれから何日も経ち、モニターの時間があと30分を切っても、レオリオどころかキルア達は誰一人として姿を見せなかった。
時計を見るのもイヤになってストールを頭からかぶり、膝を抱える。
スカート越しに触れた包帯を自分で替える気なんてもう起きない。
なんだか、これを外してしまったらこの先ずっとレオリオの「見せてみろ」ってお節介が聞けなくなる気がした。



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