◇21
はっきり言って第一印象は「苦手」の一言に尽きる。
背も声もおっきくて、人の懐にずけずけ土足で上がりこんでくるような、調子のいいナンパ男。軽薄……なだけじゃないのは後からだんだん分かってきたけれど、ハンゾーにも言った通りデリカシーはないし、おまけにとんだスケベでもある。
試験中でなければまず関わろうとは思わないタイプなのに、あんな夢を見たせいか、さっきからずっと記憶の中を薬とコロンの匂いが彷徨い続けている。
レオリオ。今どこにいるの?
お医者さんになるって言ったじゃない。
残り時間は、もうほんとに少ししかないのに。
ストール一枚じゃ防ぎきれない『残り一分』のアナウンス。
抱えた膝に顔を埋めると、どこかの扉が開く音がした。顔を上げるのをためらう私よりも先に隣のおともが翼を広げ、飛び立ってゆく。
目的地は――埃まみれの黒いトンガリ頭だ。
「ご、ゴン〜〜っ!!」
「なまえ!」
お散歩から帰ってきたワンちゃんみたいな笑顔に向かって、私は一目散に駆け出した。
「もーっ!心配したよぉ〜!」
ぎゅーっと抱き締めたゴンはその笑顔の通り、子犬の肉球みたいな匂いがした。
「よかった、なまえもクリアしてたんだね!」
「おかげさまで!」
目の前のにこにこ顔に付いている汚れを払ってからゴンの全身を見渡す。体中土埃だらけだけど大きなケガはしていなさそうだ。本当によかった!ほっとした矢先、今度は薄銀色の猫っ毛が私に向かってふわふわと近づいてきた。
「なまえのことだからだっせー罠に引っかかって失格になってるかも、って言ってたんだぜ」
「キルアもよかったぁぁ!!」
「うわ、やめろよ!」
私が両手を広げても、キルアは腕を突っぱねてゴンのようにくっつかせてくれない。でもそんなのじゃ今の私は止められません。そのくらい嬉しいんだから!
――〈残り30秒です〉
残り時間のカウントダウンを聞いてゴンが大きく息を吐いた。
「ギリギリだったね」
「もう手がマメだらけだ」
私は握った片手を、両手を見つめるクラピカへ向ける。こつんと当てたグータッチは十二分に「お疲れ様」の気持ちを伝え合えたけれど、むりやりぎゅっとしたままのキルアは私の腕の中からスルリと脱出してしまった。
扉から出てきたのはゴン、キルア、クラピカの3人。
「……ねえ、『3人』とも一緒だったの?」
「ああ」
短く返事をしたクラピカはふっと口元を緩ませて、扉の奥へ目配せした。
長い影が伸び、さっきより重さのある足音がざん、とゴールの床を踏み鳴らす。
「全くイチかバチかだったな」
「……おそい」
一番待ちわびた水色のシャツ。およそ3日振りに見た彼は、私に気付くと軽く鼻をこすってから手を挙げた。
「よっなまえ」
「遅い遅い遅い!時間ギリギリじゃない、レオリオ!!」
「な、なんでオレだけ……」
顔をしかめたレオリオのそばに寄るとふわりとオーデコロンが漂ってきて、不覚にも鼻の奥がつんと熱くなる。込み上げてくるものがこぼれないように私は唇をぎゅっと噛んだ。
1次試験でジュースをくれたトンパさんも加えてレオリオ達5人は、私とハンゾーのようにチームプレイで攻略するルートで降りてきたらしい。みんなの口ぶりと汚れっぷりから、最後は強硬手段でゴールまで滑り込んだようだ。
タイムアップのブザーと共に、薄暗い部屋へ陽射しが注がれる。
またみんなと試験を続けられるんだ。あらためてその喜びを、久しぶりに触れた外の空気と一緒に吸い込んだ。