◇23
夜が明け、私達合格者を乗せた飛行船が着陸したのはあちこちに難破船が沈む小さな島だった。座礁した船の一際大きな甲板に降り立った私達を出迎えたのは一組の老夫婦。彼らは次の試験官ではなく『ホテルの支配人』と名乗った。
”4次試験開始は3日後です。それまでの間、この島でしばしの休息をお楽しみください”
ハンター協会からの伝言を聞き、喜んだのも束の間。提示された宿泊費はなんと1千万ジェニー!到底払えるはずもなく、支配人の提案で宿泊費に代わるお宝を難破船から探し出すこととなった。
「ねーねーレオリオ、クラピカ!」
私は難破船の上で宝探しに勤しむレオリオとクラピカを呼び止めた。
「聞いて聞いて!あっちにおーっきな……」
「なんだ?宝石か!?」
「カニがいたの!一緒に見にきてよ〜!」
期待に満ちた目のレオリオは、私が話し終わるとあからさまに落胆の表情を浮かべた。
「3日間の宿がかかってんだぞ?緊張感のねーヤツ」
「そうだけど、せっかく珍しい島に来たんだから楽しむ努力はしたっていいでしょ?なんかスベスベでおまんじゅうみたいでカワイイの!カニ!見たことない種類なんだけど、新種かな?」
2人にも見てほしくて、ひとまずレオリオの袖を引っ張り催促してみたものの、手に持っていた壺みたいなもので振り払われてしまった。仕方ない。次にクラピカへ視線を送ると、彼は顎に手を当て考えるそぶりを見せた。
「ここは海に囲まれた孤島……この島の生物が、他とは違う独自の生態系をしている可能性は大いに考えられる」
「なるほ〜」
「そのカニ以外にも珍しい生き物がいないか、気にならないか?」
私に目配せするクラピカに向かって、力強く頷く。
「よし。私は別の場所を調査してこよう。そのカニは……なまえとレオリオに任せる」
「分かった!面白い生き物がいたら教えてね!」
「ああ」
二次試験でもオスシのことを知っていたクラピカだ。その博識さで、きっと他の変わった生き物も見つけてくれるだろう。颯爽とその場を離れる背中へ私は期待を込めて手を振った。が、隣のレオリオは恨みがましい目で睨んでいたのだった。
「あんにゃろ、逃げやがったな」
「レオリオ」
「へーへー。カニな」
がっくりと肩を落としたレオリオは、なんだかんだ私と一緒について来てくれた。
外はピーカン。じりじりと日差しが照り付ける中、スカートを膝の上で結んで浅瀬に足を浸すとひんやりしてとても気持ちがいい。おともも潮風に乗ってのびのびと空を飛び回っている。
「脚。沁みねえか?」
「全然。ありがと」
レオリオが指さした、包帯の取れた左脚はもうほとんど治っていて、海水に浸けてもなんともない。ほらね。ってアピールしようとその場でくるっと回ったら――難破船の割れた床が重心を変えたせいで足元がふらついてしまった。
「わっ!」
ぐらりと傾く体を、長い腕が素早く引っ張って支えてくれた。
「この調子じゃ治るモンも治らねーぞ」
「ご、ごめん……」
すんでのところで掴んだ私の腕を、レオリオは神妙な顔で見つめたまま、口を開いた。
「なあなまえ」
「ん?」
「もしお前が今みたいにヘマやって大怪我して。手術が必要だ、輸血もいる。しばらく入院でいろんな薬も飲まなきゃならねえ――となったらどうする?」
突拍子のない質問に、ちょっとムッとした。
1次試験の薬草の話をいつまでも引っ張って、私を「自然派」だの「スピリチュアル」だの変な目で見てるんだ、というのがありありと伝わってきたからだ。
「いきなり怖いこと言うじゃんか」
「自然派志向のスピリチュアルお嬢さんがせわしないから心配してんだよ」
ほらやっぱり。
「もう!変な心配しないで。前も言ったけど、レオリオって私のことNGLかなにかと勘違いしてない?」
今度はずっこけないように足元を注意しながら、私は懇切丁寧にレオリオの誤解を説明した。
私の住んでいるところは港町より山の方が近いから、ちょっとした不調には町へ薬を買いに行くより山で薬草を取ってくる方が手軽ってだけで、決して病院や薬を避けているわけではないし、偏見もない。と。
てかこれも前に言ったんだけどね。
「……ホントに?」
まだ訝しげな表情のレオリオめがけて私は浅瀬の水面を蹴った。
「つめてーな!」
「何かあれば、ちゃんと『先生』の言うこと聞くよ、私」
そういうと、キラキラ光る水しぶきの向こうでようやくレオリオは照れ臭そうに頭をかいて「そりゃよかった」と呟いた。