◇24
「カニも結構だがななまえ。この宝探しは試験の一環かもしれねえって話だぜ」
「……え」
潮だまりで元気に動き回るこのスベスベでおまんじゅうみたいなカニは食べたらおいしいのか。という疑問はレオリオの一言でどこかに吹き飛んでしまった。
言われてみれば突然こんな島に降り立って休息を取れ、というのは不自然な話だし、『お宝探し』はハンターの代名詞のような仕事だ。支配人達に渡す品物の価値や持ち込むスピードで密かに審査されている可能性は十分考えられる。
「もしかして、カニ見てるヒマはなかったりする?」
「今更かよ」
ようやく事の重大さに気付いた私はカニ達のいる潮だまりを飛び越え、そばの難破船へ乗り移った。呑気に遊んでいたせいで不合格なんてことになれば悔やんでも悔やみきれない。
「レオリオ!二人で協力してお宝山分けしよーよ!」
「しょーがねえな!」
レオリオの大きなコンパスが軽々とカニをまたいで、こちらへ駆け寄った。
探索に入った難破船の元は海賊船か商船か。運よく、中にはいくつもの貴金属や美術品らしきものが手つかずのまま残されていた。
暗くジメついた船内を二人で見て回る。この上なく幸せそうな笑顔であれこれ物色するレオリオを、割れた天井の隙間から漏れる光が、舞った塵と一緒にキラキラと照らし出した。
「こりゃすげえ!なあ、オレ達このまま帰れるかもしれねえな」
「どういうこと?」
私の肩にポンと手を置いたレオリオは、そばの箱から大振りの宝石付きペンダントトップのようなものを手に取り、これ見よがしに私の目の前に近付けた。
「だってよ。ここにあるお宝全部売っぱらえば医者になる費用を工面してもお釣りがくる。一生遊んで暮らせるぜ!お前も故郷を丸ごと買っちまえば通行証なんていらねーし、そうなりゃオレもお前もわざわざハンターになる必要ねえだろ?」
「たし……カニ」
「孤島に眠る難破船のお宝、か。ん〜、金の匂いがプンプンするねぇ!」
そして私の手にそのお宝を載せると、レオリオは船の中で一番大きな木箱を抱えて「これはオレの取り分な」と外へ持って行ってしまった。
もしレオリオの言う通りお宝を持って家に帰る。となれば、当たり前だけど私はドーレのばーちゃんのところへ、レオリオはレオリオの故郷に帰ることとなる。
そうでなくとも試験が終わればレオリオと――レオリオだけじゃない、キルア達みんなとはお別れだ。そして、その日はそんなに遠くない。
残された時間を思うと、入口から入り込む潮風が少しだけ沁みる気がした。
「なまえ!先行くぜ!」
「ちょ、ちょっと待ってよぉー!」
弾んだレオリオの声に急かされて、もう一度お宝の品定めに戻る。といってもどれが高価か、見たって全然分からないんだけど。
手始めにレオリオが手に載せたお宝へ視線を落とすと、ペンダントトップだと思っていたのは大きな宝石があしらわれたカニの形をしたブローチだった。
「か……カワイイ〜!!」
結局、お天道様の下に晒されたレオリオの木箱に金銀財宝は見る影もなく。中を覗いたゴンが不思議そうにレオリオへ尋ねていた。
「どう?レオリオ。一生遊んで暮らせそう?」
「大砲の弾じゃあ億万長者は難しそうかに〜?」
「うるせえなまえ!」
木箱の中で大切に寝かせられた大砲の弾の横へ、私は自分が持ち出した小ぶりの木箱を並べて置き、蓋を開けた。中は分からないなりに金目そうなものをセレクトして詰め込んだ金貨や宝石だ。鑑定する支配人のお二人が満足そうに頷くのを見る限り、そこまで的外れではないようだ。
「残念ね〜レオリオ。お宝は大きさより質なのよ」
「へっ、分かったような口利きやがってよ。それで、ちょろまかした”これ”は、相当値の張るシロモノってわけか?」
レオリオはふてくされた顔で、結んだスカートの裾に留めたさっきのブローチを指でつついた。
「値段は分かんないよ。でもこれはさっきのカニみたいでカワイイから、今日の思い出に持って帰りたいの。ばーちゃんにも見せたいし」
ふーん。と気の無い返事をしたレオリオの視線が支配人へ注がれる。皆が持ってきたお宝を鑑定していた支配人のおじいさんの方が私に近付きブローチを見定めるが、上げた顔は困ったような表情をしていた。
「申し上げにくいのですが……そのブローチは石のカットも不揃いで表面に細かいキズも多く、値段としてはあまり価値のあるものではありません」
「だってよ」
「いいの。私が気に入ったんだから!これからうちで大切に使うことでお値段以上の『価値』が生まれるのよ。実際がどうかなんて私は興味ないしどーでもい」
すると突然レオリオに引っ張られ、手で口をふさがれてしまった。驚きのあまり何が何だか分からないまま目を見開く私に、レオリオはこそこそと耳打ちをした。
「なまえ。これは試験かもしれねーんだぞ」
「うん?」
「ハンターの仕事を根っから否定するようなこと、ここで言って大丈夫なのか?!」
そう、何かを狩るのが生業のハンター。遺跡、財宝、食材――人により追い求める対象は違えど、手に入れようとする理由はいずれも『価値』があるからだ。
ハッとして支配人の様子を窺うと、二人とも変わらず柔和な表情でニコニコとしている。が、これが本当に試験の一環とすれば、今の言動はハンターという職業そのものを否定しかねない。
もう一度レオリオと顔を見合わせて頷いてみせる。レオリオも深く首を縦に振ると行ってこい、と言わんばかりに私の背中を押した。
「えー、実際の価値はどーでもいいわけではなく……も、ももももちろん真贋を見極め正当な評価を知ることが最もハンターとして……」
しどろもどろに弁解を図る私にくすくすと笑った支配人が2本の鍵を差し出した。
「お二人とも一人部屋をどうぞ」
「あ……ありがとうございます!!」