◇26
His side⑵
なまえと別れ、ハンゾーと交換した部屋へと戻ってきた。
ベッドへ仰向けになり暗い天井をぼんやりと眺める。他の受験者達も休んでいるのだろう。人為的な物音はせず、室内は規則的な波音が響くだけだった。
「クラピカはどう思ってんだ?」
「何がだ?」
「なまえのおいのり、だよ」
オレは隣のベッドで休むルームメイトへ問いかけた。
「もちろん感謝している。同胞に対して心を尽くしてくれたのだからな」
「ふーん」
仰向けから体勢を変え、クラピカに背を向ける状態で横を向いた。
「お前はあの『お祈り』で本当に仲間が成仏できたと思えてる、ってことか?」
なまえがクラピカにお祈りの話を持ちかけた時、オレは内心うんざりしていた。うわまた出たよ、あいつのオカルトが。ってな。
だからイヤなら無理に付き合う必要ない。そう伝えるつもりだったのに、盗み見たクラピカの表情はどこか憑き物が落ちたような、晴れやかな顔つきをしていて。それを見た時、正直少し悔しかった。オレの考えが及ばない部分をクラピカは理解している。それはオレよりもクラピカの方がなまえのことを理解しているのと同義だと思ったからだ。
でも。
「やっぱ。まだ分かんねェよ、オレは」
言っておくが、死者を弔うために黙とうを捧げることに異論はない。なまえがああいうオカルトを悪用するやつだとも思っちゃいねえ。
ただ、国家資格でもない「祈祷師」なんて曖昧な肩書を掲げてやる"あれ"に、どれだけの信憑性があるんだ?
精神的なケアをするならこの世には科学的に立証された学問として「カウンセラー」などの職業がある。しかしそうではない「祈祷師」の行いが何かを成すと信じ、実践し続けることも、根拠のない『お祈り』を受け入れることもオレには未だ理解しがたい。
一体何が、なまえを、クラピカをそう思わせる?
そんな歯がゆさを更に追い立てるように、抑揚のない声が背中を突き刺した。
「レオリオ。あの時なまえが私に何と言ったか聞いていなかったのか?」
「は?」
「彼女は私が……いや、いい」
言葉を止めたクラピカが小馬鹿にしたように鼻で笑ったのが気に食わない。
「なんだよ。言えって」
「受け入れられないなら不干渉でいいだろう。他人の何もかもを理解する必要はない」
「ああそうだな。でもオレは分かってたいんだよ」
「なまえのことを?」
含みのあるクラピカの口調に羞恥心を揺さぶられ、思わず体が跳ね起きた。
「クラピカ!」
「彼女は同胞のために祈ってくれ、それで私の心は幾分落ち着いた。それが全てだ。実際に成仏したかなどと本質から逸れたことを事実かどうか追及し論じるのはナンセンスだ」
きっかけがあればお前にもいずれ分かるさ。
そう呟いたクラピカの声も、自分の何もかもを見透かしているようでやはり面白くないと思った。
何もかもを理解する必要はない。
それでも、知りたい。あいつが何を考えているのか。何に喜び、何に悲しみ、何を信じているか。それが全てオレと同意見であってほしいわけじゃなくて、ただ違うなら「違う」ということを分かっていたい。
「……れおりお!」
どうすれば分かる?きっかけってなんだ?
瞼の裏側で疑問が水中の泡みたいに立ちのぼっては消えていった。
「れおりお〜〜!!!」
「……なまえ?」
目を開けると、顔をベチャベチャに濡らしたなまえがオレを見下ろしていた。