◇27

あの晩、支配人らは飛行船でどこかへ飛び立ち、寝ていたオレ達受験者は全員この島へ置き去りにされた。船内に残った手がかりから10年に一度の大嵐が来ることを知り、ホテル代わりのこの船……打ち捨てられた軍艦を動かし、おそらく次の試験があるゼビル島まで移動することにした。
そしてオレは岩にめりこんだ艦首部を剥がすため、大砲の弾を海中へ回収しに行って――ああそうだ。突如降ってきた瓦礫にやられちまった。そこからは記憶がない。

「よ……よかったぁぁ!生きてた〜〜!!」
喉をからしたなまえの頬に手を伸ばして、指で拭いてやる。
まだピンぼけの視界でブラウンの涙目とかち合った瞬間、あれだけ悩んで出なかった答えがなぜだか急に分かった気がした。いや、ちょっとだけ。半分くらいしか分かってねえけど。
なぜなら、あの大荒れの海に沈んでなお今オレが生きているのは、あれだけ眉唾もんだと思い続けてきたなまえが二次試験の後にやった『お祈り』が効いたんじゃ……なんて、思ってしまったからだ。
「なまえのおかげ……だな」
「レオリオ……」
ゆっくりとオレの手を取り、頬から離したなまえは目を瞑ると大きく息を吸った。
「……んなわけあるかーーーーい!!」
「ってぇ!」
同時に後頭部へ鈍い痛みが走り、オレはのそりと上半身を起こした。
「ゴンがあの嵐の中海に飛び込んでくれたから生きてんの!ゴンのおかげ!私のおかげなわけないでしょばーーか!!」
頭をさすりながらふと前を見ると、立ち上がってオレを指さしわめくなまえの脚が目の前に飛び込んできた。長いワンピースの裾はお宝探しの時同様結ばれていて、結び目のカニのブローチも健在だ。そしてブローチの近くには片方だけ太ももに赤い跡が付いている。よく見るとそれは耳の跡だった。誰のだ?ぼーっとしたまま痛みの残る後頭部へ何気なく手をやり、ハッとした。
「オレ、どのくらい寝てた?」
「夜明け前からずーっとだよ!なかなか目覚まさないから私ホントに……」
「くっそーもったいねえ!せっかくの膝枕が……ってぇぇ!!」
言い終わらないうちにオレの頭を思いっきりひっぱたいたなまえはくるりと背を向け、早足で扉へ歩いていった。
「それだけ元気ならもう大丈夫だね。じゃ」
「待て待て!意識があるうちにもう1回だけ!」
「するわけないでしょ!心配して損した!」
慌てて追いかけ肩に置いた手は勢いよく振り払われる。
こちらを振り向いたなまえは怒る、というより今にも泣きそうな顔をしていた。
「人のことは切り傷ひとつでいつまでもあーだこーだ言うくせに!自分はどうなの!!レオリオってば3次試験もギリギリだったし今回も死にかけてさぁ!心配するのはいっつも私ばっかりじゃんか!!」
相変わらずやかましいなまえの怒鳴り声を聞きながら、上がりそうになる口角をどうにか押し込める。不謹慎ながら心の中は罪悪感半分、それほどまで心配されていたことに対する一種の優越感のような気持ちが半分だ。
「悪かった悪かった。心配してくれてありがとな」
頭を撫でたら、ぎゃんぎゃんと喚き散らしていたなまえは「無事だったならいい」と言ったきり、つむじに電源スイッチでも付いてんのか?ってくらいすんと静かになった。


「じゃ、私ハンゾーのとこ行ってくるね」
「ハンゾー?なんでだよ」
「なんでって……ゼビル島に着くまではあいつがリーダーだからに決まってんでしょ。レオリオが無事だったって報告に行かなきゃ」
首をかしげたなまえに朝日が当たって、濡れた頬がピカピカと光った。



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