◇28

前代未聞の大嵐から一夜明け、私達を乗せた軍艦がたどり着いた島――ゼビル島。4次試験はこの島全体を使って執り行われた。
ルールは簡単。ポイントが割り振られたナンバープレートを奪い合い、1週間後に6ポイント分を持ってスタート地点へ戻れば合格。点数は開始前にくじ引きで引いた相手のナンバープレートが3点。自分のプレートも3点。他は1点。
試験が始まっておそらく3、4時間ほど経ったが受験者は誰一人として姿を現さない。皆、息を潜めているのだ。『獲物』を狩るために。6点分用意するとなれば、自分のプレートを守りつつもう一つの3点プレートを手に入れるのが一番手っ取り早い。
でも、残念ながら私には獲物なんかいない。そう、いないのよ。狩る相手も、そして狩られる相手もね!

顎先から落ちた汗がひとしずく地面に染み込み、出発してからずっと歩き通しだったことに気付く。この島は結構広い。やみくもに人を探し回っても効果は薄いと感じ、作戦を練るため草木で身を隠せそうなところに腰を下ろした。
鬱々とした気持ちでポッケに手を入れて、獲物の番号が書かれたカードを取り出す。
何度見返しても私が引いた番号は——98。
私の獲物は、私。あろうことかくじ引きで自分の番号を引いてしまったのだ。

他の人と違って私には3点になるプレートが1枚しかない。つまり最低でも他の受験者3人分のプレートを奪わなければ合格できない。しかも決まった標的がいないから、相手は常に出たとこ勝負だ。
この広いフィールドで、「狩り」の姿勢で臨む受験者を果たして何人も捕まえられるのだろうか。いや、見つけたところでプレートを奪えなかったり、相手がすでにプレートを奪われた後で持っていない可能性だってある。もちろん複数枚持っている場合もあるだろうけど、他の人達みたいに「確実に3点分となる相手」は存在しないから結局分の悪いギャンブルを強いられるだけだ。
なんで!どうして!私だけこんな目に〜〜!!
考えれば考えるほど自分の運のなさと厳しい現実に直面して叫び出したくなる。もう叫んじゃおっかな。それでノコノコ現れたバカ共を全員しばいていったらすぐに6点分集まるんじゃない?
そんなむちゃくちゃなことを考えながら空を仰ぐ。木々の隙間から見える快晴が目に映った時、不意に近くで葉音が聞こえた。風に揺れたのとは少し違う、不自然に何かと擦れたような音だ。
見回りに出したおともが戻ってきた?違う。だって飛んでくる羽音は聞こえなかったから。
誰かいる。
そう勘付いた瞬間、心臓が大きく高鳴った。
音を立てないように腰を浮かし、ポシェットから得物を手に取る。
絶対仕掛ける。絶対プレートを奪う。相手が誰であろうと。そうしなきゃ私は次に進めない。
警棒を握る手にぐっと力をこめ、私は音のする方へと近付いた。


「――で、結局今日一日歩き回って見つけたのがレオリオだけ、かぁ〜」
「悪かったな。点にならない男でよ」
レオリオの不満げな声を聞き流し、座ったまま空を見上げる。昼間青々と広がっていた快晴はもう日が沈み真っ暗になっていた。

絶対にプレートを奪う!とあれだけの意気込みを易々と覆されたのは、茂みの向こうから飛び出してきたのがレオリオだったせいだ。
草むらから捕らえた広い背中。それがレオリオだと気付いた時、正直迷った。交友関係の出来た相手だからとえり好みして失格になったら元も子もない。行くと決めたのなら"相手が誰であろうと"行くべきだ。
頭でそう思いながら得物を振り下ろせなかった理由は、頭にあの夢がチラついてしまったから。それだけ……ではない気もするけど、他の理由はまだ考えたくない。今は。
そして向こうも向こうで私を見るなり呑気に手を振って近付いてきたりして。警戒心ゼロのレオリオを見たらもうプレートを奪う気は失せてしまって、そんなこんなで二人で協力しようってことになった。

「ホントだよ。私、ただでさえ3枚ノルマなのに……はぁ、初日からこんなじゃ先が思いやられるよぉ〜」
「ぐちぐち抜かすななまえ!うるせーぞさっきから!!」
「ちょっと!声がおっきい!」
突然尖り声でがなり立てたレオリオの口を塞いで辺りに気を配る。
今いる場所は夜を明かすのにあらかじめ目星をつけておいた川沿いの岩陰。誰にも見つからないよう火も熾していないのに、大声を出されたら意味がない。
私の手を剥がしたレオリオは、不貞腐れたのを全身で表すかのようにごろんとその場に寝っ転がった。
「準備不足なんだよお前は。オレになーんも言わずさっさと出発しちまうしよ。次は組もうってオレとの約束、なまえちゃんは忘れちゃったのかなぁー?悲しいなぁー」
「忘れてないよ!でも、私が手助けするのはレオリオの獲物一人分だけだけど、私のは何人分付き合わせるか分かんないし。それで協力ってのはフェアじゃないでしょ?って思ったから」
「ホントかぁ?」
私の服のすそを指で弄るレオリオは猜疑心の塊みたいな目をしていた。
「お前まさか、オレ達からもプレート奪おうとしてたんじゃ……」
「まあ、最初はそうするつもりだったけど」
「……マジで?」
絶句するレオリオの横へ、私も同じように横たわる。
「でもやっぱさ。私、レオリオには試験受かってほしい。というかお医者さんになってほしいなって思うんだよね」



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