◇33

この光景、最近どこかで見た気がしたけど思い出した。ポックルがレオリオの身体検査をしていた時に見たんだ。
というのも、実は当初真面目に勉強していたのは私とポックルだけで、ハンゾーとレオリオは不正行為に手を染める気満々だったのだ。ハンゾーは試験官の部屋から答案用紙の窃盗未遂。そしてレオリオはカンニングをするためカンペを作ってネクタイや服のそこかしこに仕込む始末。

"貴様ぁ〜!そうまでして合格したいか!不正してまでハンターになりたいのか?!"
"悪いか!ハンターのライセンスさえもらっちまえばこっちのもんだ!"

そんな具合で結局レオリオのカンペはポックルに回収されてたけど、今落ちた紙切れはポックルのチェックを免れた悪運の強い紙か、もしくは新たに作り直されたものか。どちらにせよ性懲りのない!
「カンニング厳禁。はい没収〜」
「おい返せ!」
「やだよ〜だ!」
正面から伸びた腕より早く紙を拾い上げ、得意げに中を見る。そこには細かい文字がびっしり――と思いきや、予想に反して数字の羅列が一行書いてあるだけだった。
不正未遂がバレたにしてはやけに落ち着き払ったレオリオが足を組み直して言った。
「仕方ねえ。それはお前にやるよ」
「うーん?もらってもなぁ」
このワケワカな数字は暗号?パスワード? ちょっと考えてみたけどピンとくる答えは出ない。
しかし自信ありげに渡されたただの数字が。紙きれが。レオリオがニヤリと笑って見せたジェスチャーによって途端に意味のあるものに化けたのだった。
「そう言うな。いつでもどこでもレオリオ様のカッコイイ声が聞ける魔法の数字だぜ?」
そう言って親指と小指をピンと立て、耳に当てながら小刻みに振るレオリオ。
「もしかしてこれ……」
「どうだ?欲しくなっただろ」
大きく首を縦に振って、もう一度まじまじと紙を見つめる。
これが、レオリオの電話番号!
「おうちの?」
「携帯の」
「そっか。ね、これってさ。試験が終わった後も好きな時かけていいんだよね?」
私はどんな顔をしていたのだろう。目が合ったレオリオは今度はぷっと噴き出すみたいに笑った。
「何笑ってんの」
「いーや。お前この間家遠いってハナシしてた時、すげーさみし〜って顔してたもんなぁ。って思い出してよ」
「はぁ?してないけど?!」
寂しいと思っていなかった。と言えばもちろんウソになる。
でもレオリオの口調がハンゾーとお酒の話をしていた時みたいな、どこか人を子ども扱いしているような言い方だったから、私のプライドがとっさに否定を口に出させたのだ。
「ウソつけ。してただろ」
「してない」
「してた」
「してませんー!!」
時間が経つにつれ、本心がバレていたという事実に羞恥心がじわじわ膨れ上がり、私は立ち上がった。
「用が済んだなら、私部屋戻るから!」
そうして颯爽と図書室を出たのだけれど、バタンと閉めたドアを背にした瞬間、厄介にも電話番号のお礼を言ってないことに気付いてしまった。
まあいいか。明日にでもほとぼりが冷めた頃言えばいい。
でも「挨拶とお礼はきちんと言いなさい」とばーちゃんは私に何度も言ってたっけ。

「なんだよなまえ」
悩んだ末、少しだけドアを開けて中を覗くと、座ったままのレオリオがこっちを向いた。
「電話番号、ありがと」
「どーいたしまして」
ふっと目を細めたレオリオに、この際だとついでに聞いてみる。
「ねえレオリオ。私達、住んでる場所は遠いけど。試験が終わってもまた会えるよね?……電話だけじゃなくって」
声が少し震えたのを悟られたか、レオリオの返事は心なしかいつもより声色が柔らかい気がした。
「お前にその気があるならな」
「あるよ!」
「じゃあ会える」
レオリオはまた子供を見るような目で笑うから、今ホッとしたのも見透かされたんじゃないかという気がして、今度こそ本当に部屋へ戻ることにした。
「お礼は言ったからね!おやすみ!」

例えレオリオが私の何に気付いたとしても。
手の中の数字も、今の答えも、私をどれほど安心させたかってことまではきっと分からないだろう。
だって、どうしてこんなに寂しくなったり嬉しくなったりするのか私自身が分からないんだから。
正体不明の何かがずっと心の奥を揺さぶって、私はそれに振り回されてる。
部屋に戻ってベッドに潜っても胸がドキドキして、私にしては珍しくなかなか寝付けなかった。



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