◇34

飛行船で必死に勉強した努力もむなしく、最終試験は勝ち抜けトーナメント形式で1対1の試合が行われた。
不合格者は一人だけ。最後まで白星を手にすることが出来なかった者、もしくはルールを破った者――対戦相手を死に至らしめた者が脱落する、という内容だった。

まずは初戦に出たゴンが勝ち、合格を手にした。続けてクラピカも。順調に試験が進む中、異変が起きたのはキルアの2回目の試合だった。
対戦相手の301番――あの針だらけのブリキ人形みたいな人は、なんとキルアのお兄さんだったのだ。
暗殺一家として名高い(らしい)ゾルディック家。その一員であるキルアが対峙したお兄さんに言った。人殺しはうんざりだと。ゴンと友達になりたい、と。それに対してお兄さんはキルアに対し「友達なんて出来っこない」「いつかゴンを殺したくなる」「合格してからゴンを殺そう」などと耳を疑うような言葉を浴びせ続けた。
お兄さんとの試合に降参したキルアはその後、レオリオと対決するボドロさんの心臓を貫き、何も言わずに姿を消してしまった。

手の中にある真新しいカード。
私の、ハンターライセンス。
もしも最終試験がペーパーテストだったなら、これは今ここに無かったかもしれない。
それでも。
それでも最終試験がペーパーテストだったならどんなに良かっただろう。そう思わずにはいられなかった。

***

試験が終わり、合格者向けの簡単な講習を受けた後。日が暮れた頃に私達はホテルの広間へ集められた。
「それでは皆さん、最後の一夜を存分にお楽しみください!」
マーメンさんの音頭を皮切りに始まったのは協会主催の祝賀パーティーだ。
試験官の皆さんも交えて話をしたり、記念写真を撮ったり。試験中にはなかなか出来なかった束の間の和やかなひと時をみんな思い思いに過ごしていた。

ずらりと並んだご馳走と素敵な音楽をひとしきり楽しんだ私はそっとみんなの輪を離れ、バルコニーへ向かった。
体にこもった熱を夜風に奪われる感覚が心地良い。大きく伸びをしてから星空へ手を伸ばし、私はくるりと指で円を描いた。
「おとも!今夜はご馳走だよーっ!」
すると暗闇の中から私に……というより私の持っているお皿の料理目掛けて飛んできた黒い影は、ともするとハンドサインよりも早くくちばしでベーコンを一枚抜き取り、ご機嫌な鳴き声をあげた。
私が試験に合格できたのはこの頼もしい相棒が一緒に戦ってくれたからこそ。だから嬉しさや喜びを、そしてお祝いの食事も分かち合ってしかるべきだ。
食べ物を盛ったお皿は平らになっている手すりの角に置いて、夢中で食べるおともの邪魔をしないようにふわふわの後頭部を優しく指でカキカキする。
「最初港まで付いてきた時はどうしようかと思ったけど。おともがいてくれて助かったよ。ありがとね」
ドーレに帰ったらおともにもうんとご褒美をあげなくちゃ。何が欲しいかな。おともの好きなものを思い浮かべながら色々とプランを相談してみる。
「お肉?お刺身?カキカキ棒も新調しちゃおっか?それから……あ、そうそう。しばらく遊べなかった分ドーレに着いたらいっぱい遊ぼうね!」
賢いおともは私が言ったどれもが自分の好きなものだとちゃんと分かっている。その証拠に、大きなベーコンを足とくちばしで器用に引きちぎりながら何度も私を見たおともの頭はふくふくと毛が膨れ上がっている。
「ふふ、早くばーちゃんとこ帰りたいね」
私は手すりに顎を乗せ、暗闇色した毛並みの隙間に輝く暗闇色の瞳へと目線を合わせた。
「でも……ごめん。あともう少しだけ、この旅を続けさせてくれない?」
指に当たるふわふわで柔らかい毛。似た感触を私は他にも知っている。目の前の相棒とは真反対の色した、白く透き通った髪を。
「一緒にキルアを迎えに行こう」
力強く私に一鳴きしてみせたおともは両翼を広げふわりと舞い上がった。手すりを離れた躰は楽しそうに何度か私の周りを旋回してから高度を上げ、星空の下を悠々と泳ぎ始める。
私は手すりにもたれてしばらくその様子を見上げていた。

「あっ!オレのブドウ!」
突然軌道を変えて降りてきたおともが私の横をすり抜けたと思ったら、誰もいなかったはずの背後から思いがけず声が聞こえてきた。
手すりの角に戻ってきたおともは、口にくわえた小さな実を置きっぱなしのお皿へ乗せると美味しそうにつっついた。
コツコツ
広間から差す光を壊しながら、革靴の音は迷いなく私の元へと近付いてくる。
「いないと思ったらこんなとこにいたのかなまえ」
「レオリオ。どうしたの?」
振り向くと、合格者に配られた白い羽のコサージュを胸元に付けたレオリオが、両手に持ったマグカップ程度の小皿の片方を私の前に差し出してきた。
「ほらよ。なまえちゃんの大好きなアイスクリームがあったから取ってきてやったぜ」
「もう。からかわないで……ああ、チョコアイスはダメよおとも」
受け取った小皿にはレオリオの申告通り何種類かのアイスが入っていて、その中にチョコアイスと思しき茶色いゾーンが見えたから私は慌てて手で蓋をした。
レオリオからドロボーしたブドウだけでは飽き足らず私のアイスを狙ってにじり寄ってきたおともは、私の仕草でもう食べ物はもらえないと判断したのか薄情にもどこかへ飛んで行ってしまった。
隣に並んで私と同じように手すりへ体を預けたレオリオ。その手に残ったもう一つの小皿にはアイスではなくフルーツの盛り合わせが入っている。
外の景色を見ているレオリオの目を盗み、そーっと小皿へ手を伸ばしておともと同じくブドウをひょいと口に放り込んだ。
「お前!!……ったく、おともの食いしん坊は相方譲りだな」
「うるさいなぁ」
甘酸っぱい果肉を堪能中の頬をレオリオは軽くつついた。
「なあ、なまえ」
「んー?」
「キルアんとこ、お前は行くな」



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