◇36
キルアに会うため飛行船に乗り、列車に乗り、バスに乗りやってきたククルーマウンテン。
でもキルアのいる屋敷を訪ねるには『試しの門』と呼ばれる片方2トンもの扉を開かなければいけないと分かり、ゾルディック家の守衛……じゃなくて、清掃員をされているゼブロさんのご厚意で今は扉を開ける特訓をしながら使用人のお家に寝泊まりさせてもらっている。
ここへ来てもうすぐ3週間。ゴンがライセンスを使いたくないという理由から観光ビザで入国した私達は1か月しかこの国に滞在できない。にも関わらずまだここで足踏みしているのは……私のせいだ。
毛布をめくってベッドの上で体を起こす。聞こえてくる規則正しい寝息は3人分。
『試しの門』をレオリオは2週間で開けられるようになった。しばらくしてクラピカも扉を開けた。そして昨日は、左手を骨折していたゴンが私より先に開けてしまった。
それなのに3人ともまだこの家に留まっているのは他でもない。私が自力で開けられるようになるのを待ってくれているのだ。
「ん〜……」
くぐもった声と共にばさりと布の音が聞こえて隣のベッドを見ると、枕に足を乗せ、お腹を出して寝ているゴンの毛布が床に放り出されていた。
「あーあー。もう」
器用に半回転しているゴンの姿に思わず笑みがこぼれてしまう。落ちた毛布を拾い、ゴンにかけ直したらキルアに似た丸いほっぺたはむにゃむにゃと何度か動き、また健やかな寝息へと戻った。
この一件で誰よりもキルアに会いたがっているのはゴンだ。
ゴンが育ったくじら島には子供がほとんどおらず、同い年の友達ができたのはキルアが初めてだとハンター試験の時にゴンは教えてくれた。だからキルアに対して私達とは少し違う、特別な友情みたいなものがあるのだろうということはそばにいて感じていた。そしてきっと、キルアもゴンと同じ思いを抱いている。
自分自身キルアのことが心配なのはもちろんだけど、早くゴンとキルアと会わせてあげたい。そんな気持ちもあって私はここへ来たのに、今ゴンを足止めしているのは紛れもなく自分だという事実が情けなかった。
私はゴンのベッドから自分のベッドには戻らず、部屋の古ぼけた窓へ近付いた。
カタカタと風で揺れる窓枠の向こうには最終試験のホテルで見た時と同じ綺麗な星空が広がっている。
目の前にぶら下げられた二択を何の迷いもなく選んできた。正しい正しくないは結果論でしかなくとも、正しいと信じて。
キルアを迎えに行くか、行かないか。
"キルアんとこ、お前は行くな"
レオリオの言う通りにするか、しないか。
"だったらレオリオのやり方、正しくないよ"
でも正しくないのは私の方だったかもしれない。
星空がじわりと滲んで、私は頭を振りベッドの横に置いた重りを手に取った。
例え間違っていても、今やれることをやるしかないから。
「どこ行くんだよ」
「ひっ!」
低く、少し眠そうな声に背後から襲われて、昼間着ている100キロの重りを危うく足の上に落としてしまうところだった。
ドアの前から部屋の中を見渡すと、闇の中で一つの影が揺れた。レオリオだった。
「と、トイレだけど」
「ウソつけ。そんな大荷物持ってか?」
レオリオはベッドから身を起こし、黙ったままの私をじっと見た。
「筋トレでもする気だろ。ダメだ休め。昼間あれだけ酷使してるんだ、これ以上やったらお前マジで体壊しちまうぞ」
眉をひそめたレオリオの声には苛立ちと心配が混ざっている。
ベッドへ戻るか、戻らないか。また選ばされる二択。これもレオリオが正しいの?
やりきれないモヤモヤを唾と共に飲み込んだ私の爪先は廊下を向いていた。
「レオリオに言われなくたって、自分のことは自分が一番分かってる!」
「ちょっと待てなまえ!!」
毛布を放り出して立ち上がったレオリオはタンクトップにパンツ一丁だ。
「バカ。ズボン穿いてよ」
レオリオの格好を指摘して部屋を出ると、律儀にズボンを穿いてきたレオリオがバタバタと再び私を追いかけてきた。