◇40
「最終便?!またなんで」
「だってこんな遠いところなかなか来れないもん。一つくらい名物のもの食べときたいし、ばーちゃんのおみやげも買って帰りたいし。だからレオリオのお見送りは私がするよ」
「はぁ……ったく、ちょっと待ってろ」
ドーレ行きの最終便は、出発まであと約6時間。私が予約した飛行船のチケットを見るなり目を丸くしたレオリオは、待合室の椅子から立ち上がるとふらりとどこかへ行ってしまった。
置いてけぼりを食らったまましばらく。意気揚々と戻ってきたレオリオはまた私の隣の席にどかっと腰を下ろした。
「どーだなまえ。ハンターライセンスがあれば予約変更なんざ無料でし放題だ」
本当はね、名残惜しくて最後までみんなを見送りたかったんだ、私。
でもそんなことを知るはずもないレオリオは、自慢げに私より30分遅い出発のチケットを見せつけてきた。
「なまえ一人残すのは心配だからなぁ。時間すっぽかしたり、搭乗口間違えたりしそうだし」
「しないよそんなこと!」
「で、何食うって?」
それから空港の近くでパドキア名物……と銘打った特に代わり映えのしないラーメンを食べてみたり、展望デッキを見に行ったりお土産やさんを見て回ったり。
レオリオとあちこち歩いているうちに、いつもならとっくに持て余すはずの6時間は噓みたいに過ぎて、気が付けば私が乗る飛行船の到着が差し迫る時間となっていた。
「そういや、お前の携帯番号聞いてねーな」
再び戻ってきた空港の待合室で並んで座っていると、西日でシャツを朱く染めたレオリオがぽつりと呟いた。
「教えてくれよ」
「うん……」
と返事をするものの、まごつく私を不審がったレオリオが眉間に皺を寄せ、私の顔を覗き込む。
「オレの番号は前教えたよな?なのにお前、自分のは教えたくねーってのか?」
「じゃなくて!自分の携帯番号、覚えてないの」
ポシェットから取り出したピカピカの携帯電話を一旦じっと見て、電源の入れ方を思い出しボタンを押す。
「いや、ケータイあるなら見たらいいだろ、番号」
「……どーやって見たらいいか分かんない」
そう言うと、私のチケットを見た時と同じ盛大な溜息がまた隣から聞こえてきた。
今手の中にある携帯電話はハンター試験を受けると決めた時ばーちゃんが買ってくれたものだ。だけど使ったのは試験後に合格したことをばーちゃんへ報告した一度きり。電話に出るのとかけるのが精いっぱいの私にあんまり難しいことは言わないでいただきたい。
「貸してみろ」
しかし不思議なことに、携帯電話を渡すとレオリオは自分のものでもないのにすらすらと操作し始めた。
「なんで分かるの?」
「ケータイなんてどれも似たようなもんだろ。おー、これ最新機種か。いいの持たしてもらってんじゃねーかよもったいない」
そんなことを言いながらすぐに番号を見つけると自分のポケットから出した携帯へささっと打ち込むレオリオ。その様子を腕にかじりついて見てたけど、操作が早すぎて何をどうしたのかは分からない。
「ついでにオレの番号も登録しといたぜ」
「すごーい!ありがとーレオリオ!」
「いいってことよ」
戻ってきた携帯電話を、うさぎとかめの速度でぽちぽち動かし中身を見る。唯一開いたことのある『電話帳』には《自宅》の下に《レオリオ様》と、2件目の電話番号が登録されていた。
「ねえレオリオ」
「どした?」
「この「様」消すのどうやったらいいの」
「自分でベンキョーしな」
「サイアク」
小さな画面とにらめっこしていると、短いメロディーの後に流れたアナウンスが私の乗る飛行船の到着を告げた。