◇41
「気を付けて帰れよ、なまえ」
先に立ち上がったのは、見送る側のレオリオだった。
「いろいろありがとう。あの、2次試験のあと、手当てしてくれたりとか」
「お互い様だろ」
「受験勉強がんばってね」
「おう。お前もな」
「うん……それとね、レオリオ」
本当はもう話すことなんてない。なのにこれで本当に最後だと思うと別れるのが辛くてたまらなくて、私は座ったままいたずらに会話を引き伸ばしていた。
早く行かなくちゃ。
頭で分かっていても、どうしても体が動いてくれない。
「どうしたどうした。なまえちゃんはそんなにオレとの別れが寂しいかぁ?ん〜?」
目すら合わせられなくなった私を見かねたか、目の前に屈んだレオリオはわざとふざけた口調で私に問う。
そんなわけないじゃん!って怒鳴ってやりたいのに、鼻の奥がつんと痛くなって言葉にならない。
「レオリオ」
「ん?」
「ざびじい」
今の素直な気持ち。
声に出して答えた瞬間、私は涙が止まらなくなってしまった。
初めてだった。
こんなに誰かと離れるのが寂しいと感じるのは。
死に別れた仲間のように二度と会えなくなるわけでもないのに。また会おうって約束しているのに。それでもキルア達との別れとは比べ物にならない切なさが何度も何度も頬を滑り落ちてどうしようもない。
馴れ馴れしいし、背も声もでっかくてちょっと怖いし。最初に会った時はなるたけ近付きたくない人だって思っていたのになんで、どうして。
知らないうちに今じゃもう、私の中はこの人でいっぱいになってしまっている。
「おいおい、泣くなよなまえ。オレが泣かしてるみてーじゃねーか」
くくっとレオリオの小さな笑い声が聞こえる。おかしいことなんか何もないのに。と思っていたら、その後俯く私の頭に大きい手が被さった。
「いつでも電話で話せるよ。登録してやっただろ?好きな時かけていいからな」
ぽんぽんと手が動くたび香るオーデコロンと、スーッとする薬っぽい匂い。
電話が出来たって、この匂いも、あったかい手の温度も、電波は運んでくれないじゃないか。そう思ったら余計に涙が落ちてスカートの上にいくつも吸い込まれていった。
「本当に。かわいいよ、お前は」
一生懸命何度も頭をなでてくれたレオリオの手がそっと降りてくる。正面を向かされた"かわいい"とは程遠い顔の両頬を、今度は分厚い親指が順番に撫でていった。
「今の顔は忘れてね、レオリオ」
「なんでだよ」
「かわいくないから」
「かわいいけど」
「ウソ」
「かわいいって。けど、まあ」
もう一度立ち上がったレオリオに手を引かれ、ようやく私も席を立つ。
「なまえは笑ってる方がいいな」
そしてポンと背中を押された。
レオリオがそう言うのなら。
こみ上げてくる涙を、今度は自分で拭いてレオリオの手をぎゅっと握った。
包帯を巻いてくれた。手を引いてくれた。涙を拭いてくれた。いつだって私を励まして、助けてくれた手。その手に全身全霊の『祈り』を込める。
風向き、仲間、タイミング、時刻、環境、意識、
全て、全てがこの先レオリオの味方となりますように。
そう願って、手を離して。私は搭乗口へ駆けだした。
「またな!なまえ!」
搭乗口のゲートを通る直前。私は手を振って今できる限りの笑顔を作った。
「またねレオリオ!!」
もう一度会う日まで、できるだけあなたの好きな顔で私を覚えていてほしいから。