◇45

長い内戦の果てに多くの地雷や不発弾が残され立ち入り禁止区域となった私の生まれ故郷、みょうじ自治区。
ハンターライセンスを携えて足を踏み入れたそこは幼い記憶と変わらない風景だった。
痩せた土。ひび割れた土壁の建物。瓦礫と弾痕。お世辞にも美しいとは言いがたい故郷の景色だとしても、親も、家族もいない。そんな私が唯一自分のルーツを示せるここは何物にも代えがたい大切な場所だった。
念願叶った高揚感を胸に、昔の自分達が身を隠していたような壊れた家の影などを確かめながら歩く。誰かがひょっこり出てきてくれる気がして。
立ち入り禁止区域になって長いここに人がいるはずないし、実際いなかったけれども。
「あの、あなたがなまえ、さん?」
そうして『調査』と称した里帰りを終えた帰り道。私は2人の男女に声をかけられた。

***

「実はね。こっち来る前、みょうじの仲間に会ってきたの」
8月の熱帯夜と、行為の直後で火照った体に冷たいミネラルウォーターを流し込む。
汗の引いた体は思いのほか冷えてしまい、私は積み上げられた本を濡らさないようにペットボトルをサイドテーブルへ置いてからそそくさとベッドに潜り込んだ。
「故郷の仲間……見つかったのか?!」
「うん。二人」
「マジか!よかったじゃねえか!」
「ありがと。隣町の教会でね。……綺麗に花飾ってもらってたよ」
そう言ったらベッドのふちに腰掛けていたレオリオはテーブルランプのぼんやりした灯りでもはっきり分かるくらい顔を曇らせた。


声をかけてきたのは隣町にある教会の神父さんとシスターさんだった。
ありがたいことに、私が仲間を探していると知りわざわざ会いに来てくれたようだった。
「あなたに見てほしいものがある」
そう案内され、向かった彼らの教会。裏庭にある大きな石碑にはたくさんの名前が刻まれていて、かつて共に過ごした二人の仲間の名もそこに連なっていた。
お二方の話では停戦間際のある日、みょうじ方面の町はずれで傷を負って倒れていた二人を見つけたそうだ。
しばらく教会で治療していたが、二人とも間もなく息を引き取ったと教えてくれた。


「あーもー!そんな顔しないで?」
元から覚悟はしてたことだ。
内戦中の故郷は大人だって簡単に命を落としてしまうような環境だったから。銃弾が飛び交い、強盗・殺人・人さらいも後を絶たなかった場所でお墓がちゃんとあるだけ、むしろ良かったと喜ぶべきかもしれない。
もちろん今回の訃報はすごく悲しいし残念だけれど、他のはぐれた仲間とこの先一人でも多く会えることを信じて私は私に出来ることをやり続けるしかない。
というようなことを、私はもっと取り留めもなくぐちゃぐちゃとレオリオに話した。
こんなのベッドの上でする話じゃないって分かっているけど、石碑に仲間の名前を見つけた日、もしかして故郷にいたみんなはもう誰もいなくって、私はひとりぼっちになっちゃったんじゃないかって。ずっと考えないようにしていたそんな仮説が真実にしか思えず、孤独感でただ立ち尽くした。
泣いて、泣いて。そして全て流れ切った後、私が真っ先に会いたくなったのはレオリオだった。
ばーちゃんじゃなくて、ゴンでもキルアでもクラピカでもなくレオリオじゃないとどうしても駄目で、今ブランケットのもう半分に滑り込んできた彼は私にとってそういう人だから、知ってて欲しいなと思った。
それと同時に、矛盾してるけど聞いてもらえなくていいとも思ってた。
だからいつもみたいに文句の一つも言えばいい。いつもみたいにでっかい声で人の話、遮ればこれきりにするつもりだったのに、レオリオはガラにもなくただただ黙って私の話を聞いてくれて
「もう生きてないって分かってる仲間を探すクラピカはどれほど寂しいだろうね」
と私が言った時だけ
「この状況で他の男の名前出してんじゃねー」
と私の上に乗っかってきた。私の手を握った大きな手はちょっと汗ばんでいて温かかった。
「ふーん。レオリオ案外ヤキモチ妬きなんだ」
「いちいち生意気言いやがってオメーはよ」
こうして一晩中こまっしゃくれだのなんだのと散々言われ続けたけれども、ククルーマウンテンの空港で別れる時に笑って「泣くな」と言ったレオリオは、この夜一度も私に同じセリフを言うことは無かった。



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