◇3
列に沿って歩いていた足を思わず止めたのは、人の頭で隠れていた向こう側の海が突然現れたせいだ。
その空間を作り出していたのは周りの大人達より二回りは小さな背格好の男の子。スケボーを小脇に抱え、暇そうにあくびをしながらバス待ちの列に立っている。
この子も受験者? まさかそんなはずが!……と一瞬手を伸ばしかけたが、思いとどまり引っ込めた。
いやいや。世界中に子どものプロハンターは一定数いると聞いたことがある。なら、子どもの受験者だっていても不思議じゃない。同じ受験者なら忠告する必要もない。
砂利交じりのアスファルトを踏み鳴らす音が、海とあの子を視界の外へと押しやる。 頑張ってね、あのバスがザバン市へ行くことは多分ないけど。そんなことを考えながらしゃくしゃくと少し歩けば、 最後尾よりいっそう奥の一角に管理局の薄白い屋根が見えてきた。
そして同時に、迷いを見透かすかのような生ぬるい潮風が、すれ違いざま私の髪を背後へと引っ張ったのだった。
――やっぱり放っておけない
そう思い直した時にはサンダルの爪先が自ずと潮風の往く先を向いていた。
もし本当はあの子が試験に関係ない子だったら?
このまま順番がきて、バスに乗って、危険な目に遭ってしまったら?
その可能性に気付いているのに知らないふりをして、仮にこの先試験に受かったってそれは私のなりたい「ハンター」じゃない。絶対に。
「ねえ、キミ!」
「ん?」
スケボーを足で弄ぶ後ろ姿に声をかけると薄銀色の髪が揺れ、男の子がこちらを振り返った。
「あの……」
まずはこの子が受験者かどうか確かめなきゃいけない。
いや、ちょっと待って。どうやって確かめる?
『ハンター試験受けにきたの?』
直球にこう聞いたとする。答えは二択。YESかNOだ。
『はい、そうです』
『そうですか。ではさようなら』
となればさすがに気まずすぎる。ヘンに警戒されて後々私の試験に不利益があっても困るし。
かといって
『いいえ、違います』
『このバスはキケンだから乗っちゃダメ!』
となっても、会話を聞かれた周りの受験者に余計な情報を与えてしまう。
「なんだよ」
急に黙りこくった私へ、少し苛立った口調で男の子は尋ねた。
「こ、コンニチハ オイソギデスカ」
「……ベツニイソイデイマセンヨ」
青い瞳が更に不信感をにじませて細められる。
どうしよう。とにかく一旦この子を列から遠ざけよう。うん、それがいい。
「えっとね、あの……アイスクリーム、好き?」
「は?」