◇4

『1カップ200ジェニー 2カップ300ジェニー』
と書かれたのぼりが立ててあったとしても、アイスクリーム屋を指さして「一緒に買わない?」 と突然子供に話しかけてくる見ず知らずの人は十分不審者だからついていっちゃダメだと思う。まさに今の私のことなんだけど。
しかし「キルア」と名乗った銀髪の男の子は意外にも首を縦に振り、あっさりバス待ちの列から離れてくれた。
「急にゴメンね。どこか行く予定なんでしょ?」
「まーね。でも急いでないから別にいいよ。アイスも好きだし。オネーサンはこの辺の人?」
スケボーを軽く持ち直して、前を歩く小さな背中を見ながらホッと胸を撫で下ろす。
バスに乗せなかったことは正しかったと信じたい。そう思いながら甘い香りが漂う店内へ向かった。


「パドキアから1人でここまで?!えらいねぇ〜!」
「ガキ扱いすんななまえ!別にフツーだし」
ガキ扱いもなにも、チョコレートアイスを頬張る君のまるいほっぺはどう見たって子供じゃないの。という言葉は私のいちごアイスと共に飲みこんだ。憎まれ口で倍返しされるに決まってるから。
アイスを買って席に着くまでの短時間でさえ返答が簡単に想像つくほど、キルアは性格がはっきりしている子だった。明らかに私の方が年上なのに名乗った途端呼び捨てにするし。まあいいんだけど、別に。キルアが受験者じゃなければ、あのバスがハンター試験に関わっている可能性が高いことを伝えて、別のルートで目的地に向かってもらう。もし受験者なら、これ以上私から言うことはない。アイスを食べて解散!どちらにせよ、短い付き合いだ。
で、結局キルアはどっち?
会話の中からヒントを探るべく、私は引き続きキルアの声に耳を傾けた。
「遠出なら親父や兄貴とちょくちょく行ってたから慣れてるし。まあ、いつもは自家用の飛行船で直接行くんだけど、今回はいろいろあって使えなくってさー。それにザバン行きは途中で決めたから」
「ちょっと待って……自家用の飛行船?」
これは受験者かどうかには多分関係ないけど触れずにはいられない。だって一般家庭にそんなのある?ないない!まじまじと見つめた先では、スプーンを咥えたままのキルアがさも当然のように頷いた。
「もしやキルアん家ってすっごいお金持ち?でっかい犬とか飼ってそ〜」
「飼ってるけど?」
思わず漏れた感想にも色素の薄い猫毛は期待を裏切らず肯定を示して揺れる。なんかすごい人に声かけちゃったのかも私。
「でけー猟犬。ミケって名前でさ、結構賢いぜ」
「おぉ〜」
「なまえだってペット飼ってんじゃん」
「ええ?飼ってないよ」
キルアにそう言われて首をかしげる。私の家にペットはいない。それに出会ったばかりのキルアがどうして言い切れるのか。するとキルアはニヤリと笑って私をスプーンで指した。
「とぼけるなよ。あっちの木からオレに敵意を向けてるカラス。あれ、なまえのペットだろ?」
途端にどこか底知れない「圧」が辺りを支配する。
全身を襲う空気が痺れるような感覚は、言葉で問わずとも彼がここへきた目的を思い知るのに十分だった。



←backnext→


dream top
top