◇6

「なまえはなんでハンター目指してんの?」
ぎゅうぎゅう詰めの車内に二人と一羽で乗り込んだバスは緩やかに速度を上げ、ドーレの町を走る。最初こそ黙って外の景色を眺めていたキルアだったが、早々にしびれを切らして私に話しかけてきた。
「理由はいろいろあるけど、一番は故郷に帰るためかな。私の名前、なまえ=みょうじ……聞き覚えある?」
キルアは渋い顔で首を横に振った。そりゃそうか。
「みょうじは、ちっちゃな町だから」

長い内戦の果てに多くの地雷や不発弾が残され立ち入り禁止区域となった私の生まれ故郷、みょうじ自治区。終戦前は親の顔も知らない孤児達がそこで身を寄せ合って暮らしていた。その一人が私だった。

あるとき、私達のねぐらに大人が大勢押しかけて来た。
人身売買、使い捨ての労働力、性玩具――いずれにせよ無法地帯となった戦地はそういう都合のいい人材を調達できる格好の場所だ。
「みんな逃げて!!」
私達のグループで一番年上だった、姉貴分の”おねえちゃん”がむりやり車に押し込まれながら叫んだ声を受けて、私はその場を離れるしかできなかった。
当てもなく走って、走って。背後の足音がどんどん近づいてくる恐怖から足がもつれ、転がった先は脇を流れる大きな川。水中を何度かもがいた後意識が途切れ、次に目を覚ました時、私はばーちゃんたちのいるドーレにいた。
河川敷に流れ着いた私を「ハンター」が助けてくれたと。
ハンター協会を通じてばーちゃんが私を引き取るのに手を挙げてくれたと。
そのことは後から知らされた。

それからは何不自由ない生活をさせてもらっているけれど、一般人は足を踏み入れることが叶わなくなった故郷と、散り散りになった仲間のことを私はどうしても忘れられなかった。

「ライセンスがあれば故郷へ入れるようになるし、仲間の手がかりも手に入りやすい。それに今の私があるのも助けてくれたハンターさんのおかげだから、次は私がハンターになって誰かを助ける側になりたいんだ」
とはいえ、まだ何をするって具体的な目標があるわけじゃないんだけどね。
「キルアは?」
「オレは、ただの遊びだよ。なんか面白そうだったから受けてみようって思っただけ……それよりなまえ」
すると、これまでそっけない様子で話を聞いていたキルアが、急に張り詰めた表情で声を潜めた。
「ここ。さっきも通ったよな」
「えっ?」
キルアの耳打ちに促されふと車窓の外へ目を向ける。その瞬間、目の前を流れていったのはバス停のそばにあったあの大きな地図の看板だった。
「おい!どうなってるんだよ運転手!!」
同じタイミングで前方から男の怒声が聞こえてくる。
「さっきから同じところを走ってるだけじゃねェか!ザバン市にはいつ着くんだ!!」
「走行中は話しかけないで下さいねぇ」
興奮した男とうってかわって、応対する運転手さんの口調はぞっとするほど機械的だった。
――これは罠だ!
どこからともなく響いた声を皮切りに、車内は一気に騒然となった。
乗客が慌てふためく状況を楽しむかのように、バスは急カーブを切って大きく傾き、その後今度はガクンと止まった。
一定のリズムで鳴る警鐘の音。そして、遠くから聞こえてくる重々しい列車の汽笛に混じって悲鳴にも似た声が口々にあがった。
「踏切!?」
「おい!あれ見ろよ!」
バスは踏切のど真ん中に停まっていた。このままじゃバスは列車に轢かれてしまう。車内でひしめく乗客は我先にと窓から飛び出していった。

「こりゃ珍しい。2人も残るとはね」
バスが急加速した瞬間、列車の轟音が背後を通過してゆく。どうにか衝突を避けたらしい。車内を見回すと残っているのは私とキルアだけになっていた。
「当然だろ。だってオッサンから全然殺気感じねーんだもん」
キルアは涼しげな顔で肩をすくめ、私をチラッと見た。
「運転手さんが慌てる様子なかったから想定内だったのかなって」
思ったのも事実だけれど、キルアと違って私の心臓はものすごい早さで鼓動を鳴らしている。
こ、怖かった……!!
動揺を落ち着かせるため、そばの背もたれにとまって鳴くおともの小さな頭をそっと撫でた。
「やっぱオッサンが案内人(ナビゲーター)ってワケね」
「いかにも。だがそれを見破っただけでは会場まで連れていくことはできないねぇ。ザバン市まで走らせたいならオレをその気にさせてみなよ」
「望むところっ!」
キルアは待ってましたとばかりに好戦的な笑みを浮かべて、運転手に飛びかかろうとした。
「待って!」
私は思わずキルアの服のすそめがけて手を伸ばす。
「運転手さんにケガさせないでよ?」
「アホかなまえ!ムリに決まってんだろ!」
キルアが振り返って、怒り半分、呆れ半分といった顔で私を見た。
「でも、運転手さんがケガしちゃったら誰が会場まで運転するのよ!私、バスの運転免許なんて持ってないからね!」
「じゃあどーすりゃいいんだよ!なあオッサン!!」
「走行中は話しかけないで下さいって言ったでしょ」
その瞬間、運転手の手から銀色の光がヒヤリと閃いた。空気を切る音。キルアに向かって飛んできたそれが刃物だと察知したとき、私は考えるより先に体が動いていた。



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