お前達はいつもそうだ@
「よ、久しぶりだな」
医師免許を取得し、日々患者と向き合うレオリオ。
「来てくれると思ってたよ、クラピカ」
内戦で閉鎖された生まれ故郷に学校を作り、戦災孤児の保護に勤しむなまえ。
どちらも身を置くのは聖職とも呼ぶべき尊い仕事だ。人を救い、育て、他の人生を豊かにする。
だからこそ彼らの身辺は清廉であるべきで、ましてや裏社会と関わりがある者が身近に居るなど言語道断だ。
故にオレは此処にいた。ただ、見ているだけでよかった。
なのにお前達は
「何を考えている?自分で式を台無しにする気か」
「台無しなのはお前がいないことだ。来いよ。席はちゃんと用意してある」
親指で背後の教会を指したレオリオも隣で深く頷くなまえも、揃って要領を得ないといった表情だ。考えが及ばないのか同意しかねるのか。どちらにせよ浅はかであることに変わりない。
「一つ忠告しておく。今後付き合う人間は選んだ方がいい」
「どーいうこと?私達は友達」
「のように思っている、とでも?私を」
「のよう、じゃなくてクラピカは友達でしょ!」
純白の衣装に身を包んだ4つの瞳は、オレを愚直に見据えていた。
最後に彼らと会ったのは随分前だが、記憶の中と変わらない眼差しから分かる。2人は今日まで陽の当たる道を歩んでここまできたのだと。誰にも憚られない正しい道を、その目のように真っ直ぐと――自分とは違って。
「……医者や教育者が、マフィアと接触するリスクを考えたことはないのか?」
「なーにがリスクだ。今更だろ。お前が組に入ってこれまでもう何度会ってるよ」
「そーそー」
「それはあくまでお前達が今の職に就く前の話だ」
押さえつけられていたキルアの手を跳ね除け、再び坂道へ向かう。
「おい!クラピカ!」
オレを呼び止めたレオリオの声は予想通り不機嫌で、一度だけ、これが最後だと教会の方を振り返った。
「できるならば過去の私に関する痕跡は消した方がいい。私の買った恨みが君達や、君達の大切な人達に向かないとも限らない――今日は元気な姿が見られて良かったよ。結婚おめでとう。レオリオ、なまえ」
青々と広がる空に浮き彫りとなった白い教会。白い婚礼衣装の、友の顔。それらが視界から消え、黒い足元に石畳の坂道が現れる。帰り道を一歩踏み出す。その時だ。
背中から空気を伝って空間が震えた。
「いいかげんに、しろーーーーッ!!」
大音量が耳をつんざき、一度きりのつもりがまたもや声の出処へと顔を向けてしまう。
そこには目を丸くしたゴンとキルア。それから、驚いた表情で立っていたのはレオリオで、彼らが見守る中肩で息をしながら大股でこちらに近付いてきたのがなまえだった。
「ますます配偶者と中身が似てきたな」
「そりゃどーも!あのねぇ、都合のいいこと言い逃げしようたってそうはいかないわよ!」
過去は消せないし変えられないんだから。
鼻息の荒い花嫁はドレスに付いた草を払いながら堂々とそう言いのけた。
「なまえもハンターならば知っているはずだ。情報を遮断する方法などいくらでも……」
「仮にうわべの「記録」を消したって。時間が経って「記憶」が薄れたって。事実がなくなるわけじゃない。クラピカがマフィアやってるのも緋の目を取り戻すのにまずいこと色々やったのもなかったことにならないしレオリオが私と付き合ってる間にデリヘル呼んだこともなかったことにならないのっ!!」
「……デリ……?」
「頼むクラピカそこはスルーしてくれマジで」
なまえが言うや否や血相を変えたレオリオが割り込んできた。
彼の両肩を掴む手からは、必死さと気まずさがひしひしと伝わってくる。しかし彼女の主張の核はそこではないのだ。
かぶりを振るなまえのベールが、風に揺れて草の上で半透明の影を踊らせた。
「なかったことにできないから、未来の過去を愛せるように精いっぱい今を幸せに生きるんじゃない!大切な仲間と引き換えにして私達が得られる安全って何?そんなことして、クラピカの『未来の過去』は幸せになるの?!」
なまえのあの真っ直ぐな目が、再びオレを射抜いた。
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