じーっとしててもどーにもなんないもんA

・・・

「あのー、すみません」
うっすら聞こえる女性の話し声を追って、教会の中にある、一枚のドアをノックする。
部屋から出てきたのはコサージュを胸元に付けたパンツスーツの女の人で、その人はオレ達を見るなり困惑した表情で扉の開け口を少し狭めた。
「参列者の方ですか?恐れ入りますが今建物内は関係者以外立ち入り禁止でして……」
「あれー?ゴンとキルアじゃん!」
「なまえ!」
ドアの隙間からこちらを覗いたなまえは、昔のままの屈託ない笑顔でニコニコと手招きをして控室の中へ迎え入れてくれた。

2人が付き合い出してからのレオリオは、なまえのことを時々「妖精さん」と呼んでいたけれど、ふわふわした真っ白いスカートのウエディングドレスを着て鏡の前に座るなまえは本当に妖精のようだった。
「うわ〜っ!なまえ、ドレスすっごく似合ってるよ!ねキルア!」
「へー。悪くないじゃん」
「ありがと!2人とも早いね?もう来てくれたんだ」
髪にまだカーラーやクリップを付けたなまえがオレとキルアを交互に見つめた。
久しぶりに会ったなまえの、変わらない雰囲気にホッとする。それはキルアも同じみたいで、肩の荷がおりたようにドレッサーのそばへ寄ったキルアは得意げに話し始めた。
「ゴンが早く行きたいって聞かなかったんだよ。オレは早すぎるって言ったのにさぁ。案の定時間持て余してるし」
「ごめんってば。でもキルアも今日すごく楽しみにしてたんだよ。さっきだってね、スピーチの練習しとこうって」
「言わなくていいだろそんなこと!」
コホン、となまえの支度を手伝っていたパンツスーツのお姉さんが咳払いをして、ハッと口を押えたが、なまえは怒るどころかお腹を抱えて大きな笑い声をあげた。
「いやー2人とも相変わらずだねぇ」
「そっちこそ。あ、そーいやリオレオは?」
「新郎の控室は隣だよ。あっちはもう準備終わってると思……」

バタン!!

なまえが答え切らないうちに、近くで荒々しいドアの開閉音がした。そして間髪入れず部屋に飛び込んできた白いタキシードのレオリオはまっすぐこっちに近付き――オレ達の頭を目掛けて、渾身の手刀を振り下ろしたのだ。
「おのれらぁ〜!」
「ってぇ〜!!」
「何すんだよオッサン!」
本日2度目の痛みに頭を抱えて見上げたレオリオは、とんでもない怒りの形相でわなわなと肩を震わせていた。
「それはこっちのセリフじゃこのボケ!なんでおめーらがオレより先になまえのドレス姿拝んでやがんだ?!」
「え!」
レオリオ、まだ見てなかったんだ!
「えーと……ご、ごめんなさい」
「オレが、オレがどんなにこの瞬間を……っ!」
言葉に詰まったレオリオが黙ってしまい、何とも言えない重苦しい沈黙が部屋の中に広がる。
「うーん……」
プルプルと震えるレオリオの指が示した先、みんなの視線を一手に集めたなまえはとりわけ居心地悪そうで、こめかみを押さえたあと苦笑い交じりに小首をかしげて人差し指を頬に置いた。
「えへへ、カワイイ?」
「カワイイ!!」
首がもげそうなほど何度も縦に振って、オレ達を軽く突き飛ばしながらよたよたとなまえに近付くレオリオ。
「カワイイし、綺麗だし、この世で一番の……オレの妖精さんだ」
「ありがとう。レオリオのタキシード姿も世界一カッコイイよ」
「……こういうことを最初に言ったりできるのが、花婿の特権じゃねーのか?なぁゴン!キルア!」
丸く収まった流れだとちょっぴり安心してキルアと顔を見合わせてたら、不意打ちで涙目のレオリオに睨まれ、返す言葉もない。

なまえはふてくされた顔のレオリオをなだめるように腕をさすった。
「まあまあ。まだ完成じゃないからね。全部終わったら一番先にレオリオに見せるからそれでいーでしょ?ね?ヘアメイク終わるまでもうちょっと待っててよ」
「……わかった」
なまえの手を大事そうに握りしめたレオリオがくるりとなまえに背を向ける。
「お前らもさっさと出てけ。準備の邪魔だ」
最後の抵抗と言わんばかりにオレ達に向かって眉間に皺を寄せたレオリオは、オレとキルアの背中を軽く叩いてドアまで促した。

「待って!オレ達、これを渡しに来たんだ」
そうだ。わざわざ『関係者以外立入禁止』の貼り紙を無視して教会の中に入ったのは、単なる時間つぶしのためじゃない。
オレとキルアは、それぞれ手に持っていたブーケとリボンのかかった小箱をレオリオ達へ差し出した。




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