4話

 休暇の終わる前日、殆どの生徒が帰省から帰ってきてあれほど静かだった学校内は嘘だったかのように騒がしくなった。帰ってきたのはダフネ達も例外ではなく、同室の二人は帰る時に纏めていた荷物を解くことに尽力している。
談話室で本を読んでいれば、ドラコが送った蛇を持って現れる。

「やぁ、シキ。久しぶり」
「こんにちはドラコ」

「クリスマスプレゼントをありがとう」と言いながら現れたドラコは机の上に蛇を置いて動かした。随分と気に入っているらしい。此方こそ、と彼のくれた髪飾りを付けた髪を見せる。

シキがクリスマスプレゼントを送った五人もシキにプレゼントを送ってくれた。
ドラコはスリザリンカラーの宝石がついた髪飾り。宝石がついているから派手かと思いきや、決して髪飾りが目立ちすぎない質素なデザインになっていて普段使いがしやすい。それに使いやすく可愛いデザインである。
次にダフネはシキが欲しいと思っていた本。どうやらボソッと呟いていたのを聞いていたらしい。この本は図書室にも無く、絶版がなされていた本だったので非常にうれしい。
ミリセントは幾らでも書くことの出来る魔法のノート。普段は無地のページだが、見たいと思ったページが勝手に浮かび上がって来るらしい。すごいな魔法。
そして、ハーマイオニーは綺麗な羽根ペン。見る角度によって羽の色が変わる仕組みになっているらしい。といっても目がチカチカするものでは無く、普通に綺麗な代物だ。
最後にネビル。ネビルはインクをくれた。一見普通のインクだが、欲しい色に勝手に変わってくれるらしい。これが意外と役に立つ。インクを変える手間を無くせるというのは随分とありがたい。

というか、殆どが勉強に関するものなのはきっと普段からシキが本ばかり読んでいるからなのだろう。逆にドラコがなんで髪飾りを選んだのか気になるくらいだ。

「なんでドラコは髪飾りを送ってくれたんだい?他の人は勉強用具ばかりなのに」
「何でも何も、君はアクセサリーをあまり付けないけど好きなんだろう?」

すこし、ドキリとした。アクセサリーを好きだと言ったことは無いし、そんな素振りを見せたことも無いはずだ。そう言えばドラコはフンと鼻を鳴らした。

「ダフネやミリセントの前では気をつけてたようだけど、僕の前じゃ良く自分の髪飾りを触ってたぞ」

そっ、かと呟いて談話室の暖炉を眺める。どうやらドラコの前では気を緩めてしまっていたらしい。それはまぁ自分が彼を侮っていたのが原因だろう。女子というのはちょっとしたことに気がつきやすいし、同室でよく話すということから気をつけていたが。
ちらりと頭に掠めた過去の記憶を振り払う。
これはどうでもいい記憶だ。

そんなにも自分を見ていてくれていたことが、おかしくて少し笑ってでありがとうと言った。ちらりと見た時、ドラコが頬を染めていたのはきっと見間違いでは無いのだろう。

何故、自分がここに来たのかと疑問に思うことがある。しかし、今わかった。
きっとアズマシキを知る人が誰もいない所へ行きたかったのだ。家や魔術師のしがらみに囚われることなく、自分らしく息ができるところ。せっかく願いが叶ったのに、結局は魔術師としてしか生きていけないのだから自分はきっともうどうしようもないのだ。

すでに運命は動きだしている。

 さて、いつも通りの日常に戻り、特にこれといったイベント事もないまま日々がすぎる。そんなある時、嬉しそうにドラコがいるのを見かけた。どうかしたのかと問いかければどうやらハリーを退学に追い込める材料を見つけることが出来たと。

「あいつらドラゴンをかってたんだ」

ドラゴン。
幻想種の中でも上位に位置する生物。その心臓は大きな力を持ち、かのアーサー王は竜の心臓により無限の魔力を持っていたらしい。一番馴染み深いのはアルビオンだろう。霊墓アルビオンの礎になった存在であり、ブリテンに残り続けたため死滅した最後の竜。

この世界のドラゴンが果たして純血なのか、それとも世界の裏側に移動した竜種の残した竜の因子が付着したものなのか。この世界において竜とは飼育が禁止されており、滅多に会えるものでは無い。それをハリーが連れている。

現場を押さえてやると意気込んでいるドラコに自分も言ってもいいかと尋ねる。

「君もポッターのやつを...いや、いい。そんなわけないからな」

どうせドラゴンにでも興味を示したんだろというドラコに当たりと笑えばため息を吐いた。

ドラコの許可も得てこっそりと二人で夜のスリザリン寮を抜け出す。といっても地下にあるここは昼でも夜でも変わらず、ジメジメと不気味だ。展望台についてハリーたちが来るのをまつ。ドラコは緊張しているのか特に会話はない。静かにその時を待っていれば誰かが階段を上がる足音が響いた。ドラコはハリーだ!と喜んでいるが本当にそうだろうか。11歳の子供にしては足音が少し大きすぎるし、そもそもこんな堂々と足音を立てるのか。

そうして現れたのは変身術の担当であるマクゴナガルだった。

シキ達二人がこんなところにいるのに驚いたマクゴナガルは今何時だと...!と叱りつけるが、ドラコはハリーがここに来ると聞いて来たと何とか弁解を図る。しかし、ここではいそうですかとなる彼女では無いだろう。現にハリーはおらず、ここにいるのはシキたちだけなのだから。

天文台から空を見上げた。星は煌めき、月は静かに辺りを照らしている。時計塔において天体科には所属していなかったため、天体魔術を使うことは出来ない。しかし、やはり星というのは神秘を感じるほどに美しいと思った。目を瞑って最大限に風を感じる。

ドラゴンは諦めるしかないか。

ドラコを引っ張ってマクゴナガルの元へと歩く。

「すみませんマクゴナガル先生。どういう理由があろうと就寝時間を過ぎて外を歩いていたのは事実です。どんな罰も受け入れましょう」

そう言うと彼女はいいでしょうと天文台を降り始める。着いてこいということなのだろう。
それに従ってドラコを連れて後ろを歩き始めた。

「これからポッターが来るのに」
「得点よりポッターが大事って言うならいいんじゃない?」

そう言うとさらにぶすくれてしまった。人を観察する目があると言っても彼はまだ子供だ。そう簡単に割り切ることは出来ないのだろう。

そうして連れてこられたのはスネイプの部屋だった。まぁ自分達はスリザリン生で彼はスリザリンの寮監なのだから当たり前だろう。
マクゴナガルに連れてこられたシキを見るなり、訝しむような視線を送ってきたが笑顔で誤魔化しておいた。あくまで自分は彼の話に乗っただけで、唆したわけでは無いという意思も込めて。そうしてシキたちにはそれぞれ-20点、合わせて40点の失点を寮に加えられ、罰則は後日となった。そうして部屋を出ようとした時フィルチがマクゴナガルを探していたと出てくる。そして、ハリーとハーマイオニー、ロナウドが出歩いているのを見つけたと言った時のドラコの嬉しそうな笑顔と言ったらそれはそれは素晴らしいものだった。


***


 ハリー、ハーマイオニー、ロナウドで150点を減点されたグリフィンドールでは悪い意味で注目を集めていた三人だったが、学期末試験が近づいてくればそんな話も徐々に消えていく。
ちなみに私とドラコはスリザリン内で何か言われたということは無い。逆にハリーたちのせいでと責任転嫁をし慰められる始末だった。さすが真の友を得られると歌われているだけあると思う。閑話休題。

罰則だが、禁じられた森での調査ということに決まった。指定された日の夜、書かれていた場所にドラコと共に集まればグリフィンドールの三人はもう既に集まっている。シキを見つけたハーマイオニーが元気よくこちらに手を振ってきたので振り返せば、グリフィンドールの二人はハーマイオニーとシキをぎょっとしたように見た。

「初めまして、ハリーとあなたは...ロナウドだったよね。私はシキ・アズマ」
「う、うん。初めまして、僕はハリー・ポッター」
「ロナウド・ウィーズリー」

もう知ってるようだけど、とぼそりというハリーにまぁハーマイオニーから話は聞いてるからとだけ返す。

「全くなんでスリザリンなのにグリフィンドールと仲良くするのか。僕には理解できないね」

そう言うドラコに言葉を返そうと思ったが「理解されるつもりもないし、寮のいざこざに興味はない、だろ?知ってる」と遮られてしまった。よく心得ているようで何よりだ。

フィルチの案内に続いて五人で固まって歩く。フィルチは自分たちを驚かすように話をするが、それはシキの興味を引くだけだった。横を歩く彼はそうでも無いようだが。

「怖いのか」
「な、何を言ってるんだ!」

声を大きくして否定をするが、全く説得力は無い。顔は恐怖のあまり青白く、体も少し震えている。誤魔化すように「君はどうなんだ」と言うが、別にとだけ返した。逆に入っては行けないと言われた森に合法的に入ることが出来るのだから夜中に出歩いて良かったとまで思っているが、これをフィルチから先生にチクられてはままならないため口を閉ざす。

そうして森の入口に着いた時、ランプを持った巨体が目の前に見えた。確か森番のハグリッドだ。それを見たハリーたちは安心したように息を吐き、フィルチは私たちを預けてここを去った。

「いいか俺達で傷ついたユニコーンを見つけるんだ」

今回、森に入ってココ最近死んでしまっているユニコーンの調査をするらしい。森を進んでしばらくすると血の跡が地面に続いているのを見つけた。ここからは手分けで進むとハグリッドはロナウドとハーマイオニーを連れて行って進んでいってしまう。ファングという犬だけ残された私たち三人もドラコとハリーの距離感に悩まされながら血を跡を追っていった。

「シキは純血じゃないの?」

森に慣れてきたらしいハリーがそんなことを聞いてくる。それに割り込むようにドラコが「お前たちと一緒にするな」と入ってきたが、いつもの事なので無視して純血だと返した。

「私は別にそんなことに興味が無いだけ。スリザリンとグリフィンドールが仲が悪いとか、純血至上主義とか全部どうでもいいんだよ」

私と関わりたい人だけが関わってくればいいし、私もそうする。

そうやって言えば、ハリーはそうなんだと呟いた。ドラコも黙って後ろを着いてくる。
シキにとって一番は研究であり、今行っている儀式である。一応人間だから誰かを守りたいという気持ちはある。けれど、それでも結局は研究を取ってしまうだろう。シキはそういう人でなしだから。

しばらく歩けば、ユニコーンが横たえているのが見えた。そしてその傍にはユニコーンの血を啜る黒いフードの人間も。
ドラコはその光景に恐怖して叫び始める。その声に気がついたらしいフードの人間もこちらへと近づいてきた。
逃げようとするドラコと固まっているハリーを捕まえて、体全体に強化を加えて脇に抱える。そして後ろへと咄嗟に飛べば、その振動でメガネが落ちた。

あれは...。

後頭部に印象的な赤が見える。間違えないクィレルだった。
すると蹄の音が聞こえ、何処からか弓矢が放たれる。それから逃げるようにフードの人間...クィレルは去っていった。
それを見届けたあと、地面にドラコとハリーを下ろして、眼鏡を拾いに戻る。強化をかけていたとはいえ子供二人を抱えるのは少し肩にきた。
すると弓矢を放ったのだろう、体が馬で上半身が人間...ギリシャ神話で見たケイローンのような姿の男がこちらへと来る。ケンタウロスだった。


***


 翌日、一日の授業が終わりシキはクィレルの部屋へと向かっていた。

フィレンツェと名乗ったあのケンタウロス。フードの男はヴォルデモートで、体を欲しているのだと言った。しかし、あれはどう見てもクィレル先生で、まぁそういうことなのだろう。彼の後頭部、あれがきっとヴォルデモートなのだ。それにドラコは茫然自失で何も話を聞いていなかったようだが、ハリーはなにか確信があるかのように強い目をしていた。彼はヴォルデモートも繋がりがあるからなにか感じるものがあったのだろう。

しかし、ヴォルデモートがクィレルについているのならちょうどいい。

手に持っている羊皮紙を見ながらそんなことを思う。
これはセルフギアス・スクロール。呪術を用いた品でこれで結ばれた契約は何人たりとも破ることは許されない。
いつかのために作っておいた品だがまさかこんな直ぐに使うことになるとは思いもしなかった。

クィレルの部屋でノックをすれば、中から返事が聞こえ名乗ってから入らせてもらう。いつものようにオドオドと、どうしましたかと尋ねるクィレルに相談があってと言えば紅茶を机へと出してくれた。

「ありがとうございます先生」
「そ、それで相談とは...?」

いえ、それがですね。貴方の後頭部の彼とお話したいことがありまして。

そう言うと、真っ先に杖をこちらへと向けた彼に対し、笑顔で紅茶を飲む。うん、美味しい。

「まァ落ち着いてください。校長に言わず、ここに来ているんですから話ぐらいは聞いてくださってもいいのでは?」

そう言ってボソボソと何かを話したかと思えば、ターバンを脱ぎ捨て席へと座った。ちらりと見ると後頭部には確かに人の顔があった。

「俺様に話というのはなんだ」

声が違う、それにクィレルが話していないところを見るとこれはヴォルデモート本人なのだろう。予め盗聴防止のルーンを扉に刻んでおいたのでこの話を聞いている人物は居ないはず。しかし、念の為誰か周りに人がいないか確認してから口を開いた。

「取引をしたいなと思いまして」

取引?と疑わしげな声を上げるヴォルデモートにえぇと頷く。その瞬間空気が震えた

「貴様ごときがこの俺様と対等に契約だと?」

怒っている。中国の慣用句で怒髪天を衝くという物があるがまさにこの表現が相応しいだろう。しかし、いくら相手が怒っていようと自分が優位に立っていることは変わらない。だからこそ「貴方が体を探していると聞いたのでそれを用意すると言っても?」と笑みを浮かべたまま言えば相手は大きく舌打ちをした。

「……良かろう。内容は」
「私に一切の危害を加えないことを約束していただければ」

別に悪い話でも無いはずだ。彼は体がなく、誰かを乗っ取ることでしか動くことが出来ない。それをシキが用意しようと言っているのだし、その対価もただシキという一人を見逃すだけでいい。しかしそう簡単には行かないだろう。予想通り「誰がそれを信じる」と言ったヴォルデモートに一本の試験管を机の上に置く。
クィレルはそれをゆっくりと受け取ると、蓋を開けて観察をする。そしてぼそりと真実薬...と呟いた。

「そう言うと思ったのでこんなのも用意してみました」

これはクリスマス休暇中、スネイプの助手をしていた時に作っていたので便乗して、こっそりとくすねたものだ。効能的に便利だと思ったから念の為取ったが、まさかこんな直ぐに使うことになるとはpart2である。
意図がわかったのかクィレルは真実薬を自らシキの口へと流し込む。そうして再び正面に座ったクィレルは私への質問を始めた。

「これはダンブルドアに命令されてか?」
「いや、私の判断だ」
「ダンブルドアの仲間?」
「別に?彼のことはパトロンぐらいにしか」
「どうやって体を用意するんだ」
「そういえば、ここはホムンクルスはないんだったっけ。わかりやすく言えば人造人間を作って貴方に憑依させる感じになるかな」

勝手に口が言葉を紡いでいく。これが真実薬というものらしい。しかし、次の質問でクィレルもヴォルデモートも静かになった。

「君は純血か?」
「さぁ、私はこの世界の人間じゃないからね。一応元いた世界では両親ともに魔術師の名家で政略結婚だったけど」
「魔術師?」
「分かりやすくこの世界でいえば魔法使いと同じ立ち位置。魔術を使って神秘を研究をするのが魔術師。」

ま、魔法使いと違って魔術の使えない人間から魔術の使える子供が生まれることはないけど。

そうやって言えば二人とも考えこんでいるようだが、真実薬を使っている以上これが真実で、事実であるのだ。これは今日中に答えが出ることは無さそうだ。取り敢えず、研究の邪魔をされたくないからこの取引を持ちかけたというシキの目的だけを話してセルフギアス・スクロールを机へと持ち出す。

「これは呪術を使った契約書。契約を破れば、破った方に死ぬ程の苦しみを与える」

そうして事前に書いておいた文章を読み上げる。

対象:
アズマシキ

アズマの刻印が命ず。
各条件の成就を前提とし、制約は戒律となりて、例外無く対象を縛るものなり。

制約:
アズマ家八代継承者、芥現の孫たるシキに対し、
ヴォルデモートへ新たな体を作り、その提供を絶対とする。

条件:
ヴォルデモート並びにヴォルデモートへの服従者はシキを対象とした殺害・傷害の意図、及びそれに準ずる行為を両者に同意があった場合を除き、永久に禁止する。

読み終わり、スクロールを懐へとしまう。そして、まだ少し残っていた自分の分の紅茶へと口をつけて席を立った。

「別に返事は今じゃなくても、ゆっくり考えるといい」

部屋を出て、扉に刻んだルーンを解除する。そして少し歩いたところでふと、そう言えばと思い出した。席を立った時、何故か自分の過去が頭をよぎったがあれはなんだったんだろうか。