5話

 学期末テストも終わり、生徒たちがそれぞれの出来を話して広間全体が騒がしい。隣で昼食を取っているダフネもどうだったかとほかの友人と喋っていた。ふと、フクロウが一羽、手紙を持ってシキの元へと届けに来る。中を開けば『今夜、四階の禁じられた廊下の奥で』とだけ書いてあって、隈無く探すが宛名のようなものは見つからない。

そう言えば三階の奥に入るなと言われた扉があった。しかし、わざわざそんなところに呼び出して話す相手となると一人しか思いつかない。

ちらりとクィレルの方を見れば、パッと目が合った。どうやらあっていたらしい。恐らくあの時の返事だろう。
手紙を懐にしまい、ダフネに先に戻ることを伝え広間を出る。そしてその足で向かうのは四階の禁じられた廊下、そこにある扉。ドアノブをひねろうとするが動かないところを見ると鍵がかかっているらしい。魔術で鍵を開けて扉を開けば、途端に獣の唸り声がシキを襲った。
三つの頭の犬、ケルベロスか。
地獄の門番と言われている獣がこんな所にいるのだから魔法界とは本当によく分からないものだなと思う。
とりあえず扉を閉めれば自動的に鍵がかかるのかカチャリという音がした後にまたドアノブはうんともすんとも言わなくなった。夜を迎える前に下調べでもしておこうと思ったがそうはいかないらしい。まずはあのケルベロスの対処を考えなくては。

 そうして10時の就寝時間を過ぎた頃、誤認魔術の応用で姿を隠してからこっそりと寮を抜け出した。夜のホグワーツはどこか神秘的で涼しく感じられる。
そんな空気を吸い込みながら四階に着いた時、喋り声が聞こえた。ハリーとロナウド、それにハーマイオニーが扉に入っていくところだった。こっそりと体を滑り込ませて会話を聞いているとどうやらこのケルベロスは音楽を聞くと眠ってしまうらしい。確かに部屋にはハープの音とケルベロスのいびきが混在していた。
止まってしまっても困るので三人が必死に退けているところを先に入らせて貰う。そうして下に降りれば眼前には蔦が広がっていた。どんどんと体が絡め取られていくが、焦らずに本の内容を思い出す。

これは確か悪魔のワナと言うやつで動きで生き物と物を区別しているため動かなければ何もしてこない恐竜の目のようなものだったはずだ。

そうして静かに待っていれば素直にその下の地面へと落とされる。遅れてきた三人もハーマイオニーの機転により無事にここを通過した。隠れて彼らが行くのを見守り、その後に先に進む三人の背中を追いかけてゆく。この先もこういったギミックがあるのだったら三人に任せておいた方が楽だ。もし進むことが出来なければそれまで。自分が代わりにやればいい。

そんな心配も杞憂だったらしい。三人は無事に全てのギミックを突破して行った。いや、無事というのは少し違うか。ロナウドが魔法のチェスによって頭を殴られてしまったから、ハーマイオニーが彼の面倒を見るといって最後に進むのはハリーだけだった。ここまで来たらもう魔術は解いていいだろう。
ロナウドを抱きしめるハーマイオニーに近づいて治癒の魔術をかけてやる。

「貴方、なんでここに...?」
「夜中は魔力のノリが良くてね。こっそり外に出てたら三人を見つけたから、気になって後をつけてたんだ」

真実を言う訳にもいくまい。そんな嘘をつけばロナウドを治したことについて感謝を伝えられた。しばらくすれば意識を取り戻すとだけ言ってハリーを追いかけてゆく。そうして追いついた頃にはハリーの腕を掴むクィレルの体は全体が水疱瘡のように膨れ上がっていた。眼で見なくともあれはもう助かりようがない。そうして眺めていれば魂のようなものが彼の体から飛び出してハリーは気絶をしてしまった。

「契約書を出せ」

そう言ってシキに近づいてきた魂、ヴォルデモートは契約書を出すと魔法で署名をする。

「うん確かに。学校が終わって帰り次第作業を始めるから待っててくれたまえ」

契約書を見て名前が書かれていることを確認してから「住所はここ」と拠点の場所が書かれた紙を懐から取り出す。それを暗記したのか、壁の向こうへ消えてしまったのを見届けながらハリーへと近づく。規則正しく腹が動いているのを見るとおそらくただの疲労によるものだろう。足と腕に強化をかけた後、ハリーを抱いて前の部屋へと戻れば、それに気がついたハーマイオニーが駆け寄ってくる。

「ハリー!!」
「大丈夫だよハーマイオニー。向こうの部屋でだいぶ頑張ったみたい」

寝ているだけだといえば、安心したようにホッと息を吐いた。そうしてしばらく待っていればダンブルドア校長が直々に迎えに来てくれ、シキたちは揃って部屋を出た。

 この学年も最終日を迎え、いつもの大広間に腰を落ち着ける。壁にかかるタペストリーは一面緑のスリザリンカラーで今年の最優秀寮は自分たちであることを示していた。前に立つダンブルドアがそれぞれの寮の最終得点を発表してゆく。

四位グリフィンドール、312点。
三位ハッフルパフ、352点。
二位レイブンクロー、426点。
一位スリザリン、472点。

よくやったというダンブルドアの声とともに周りの人々は歓声を上げて喜ぶ。しかし、最近の出来事も勘定に入れなくてはという一言ですぐに静まり返った。そして、ダンブルドアは得点を得たものを発表する。

ハーマイオニーが50点。ロナウドが50点。ハリーが60点。そしてネビルに10点。

そして壁に飾られていたタペストリーはグリフィンドールに変えられ、スリザリン以外の席から歓声が上がった。流石に都合の良すぎる大逆転に苛立ちを隠しきれないのかドラコからは舌打ちが聞こえる。確かになんだこれと落胆を抱かないことも無いが、結局最優秀寮なんてそう固執するものでもない。

数少ない荷物をまとめ、一緒に帰るという同室との約束通り駅で一足先に待っていればハーマイオニーが走りよってくる。

「シキ!あの時ぶりね!元気だった?」
「あぁまあね」

そうして期末テストがどうだったとかそういうたわいもないことを話す。

そう言えば期末テストの成績はシキとハーマイオニーの同率一位だったらしい。そういえば順位が出されていたんだったかと言えば「全く貴方は」とため息混じりに呆れられた。

するとハーマイオニーの名前を呼ぶ声が聞こえ、ハリーとロナウドが来る。彼ら二人も四階のあの部屋で会った時ぶりだ。

「シキ、久しぶり」
「ん、ハリー。それにロナウドも」

そう言ってロナウドを見れば、どこかいたたまれないようにもぞもぞとしている。何かあったのかとちらりとハリーの方を見れば、肩を竦めて肘でロナウドを突っついた。

「あの時、僕の怪我を治してくれたんだろ...?その...ありがとう」
「あぁ、別に死なれたら私が迷惑だからやっただけ」

そうやって言えばロナウドは「なんだよ!折角感謝したのに」と怒って列車へと乗っていってしまう。そんな彼に弁解を図るハーマイオニーだが、気にしてないと言えば貴方はそうかもしれないけどと怒られた。

「一緒に帰ろうか誘おうと思ったけど、ロンのあの様子じゃ無理そうね」
「まぁしょうがないさ」

自分も先約があるし、と言えば驚いたような顔を二人にされる。これはそんな人がいるとは思わなかったとでも言いたい顔だな。

「確かに私から関わることはあまりしないけど人間関係を閉ざしてるつもりは無いよ」

そうやって言えば二人はごめんと素直に頭を下げた。すると向こうからドラコたちが歩いてくるのが見え、ハリーたちは「休み中連絡するよ」と言い残し避けるように列車の方へと向かっていく。続いてきたドラコはポッターめと恨みがましく呟きながら向き合った。

「パンジーとは一緒じゃないんだ」
「君、パンジーと一緒だとことごとく避けるよな」

帰りだから一緒にいると思っていたがそれはそれで良かった。パンジー・パーキンソン、彼女とはあまり面識はない。というよりは面識を持たないようにしているというのが正しい。以前ドラコと一緒に話しているのを見た時に甲高く、しかも大きな声で喋っているのに辟易してしまったのだ。同室で無かったことに安心してしまうぐらいには。

それが顔に出てしまったらしい。ドラコは分からなくもないと苦笑いを浮かべた。

「ま、連絡を取りたかったらクリスマスのときに渡したやつでも使って」

あぁ、あれかと。聞けばあれは実家の寝室に置いているらしい。魔力を込めて動かすところまではしたものの、クリスマスはやはり忙しく連絡を取るどころではなかったと。

「あれって君から連絡を取ることは出来るのか?」
「んーやれば出来るけど、あまりやりたくは無いね」

同じものを数作ったせいで識別がしにくいのだ。連絡を取るためのものだからやれば出来るが間違った人間に連絡をする可能性がなくもない。だから殆どは一方的なものになるだろう。そう言えばドラコはそうかと呟いた。

「じゃあそろそろダフネが来ると思うから」
「あぁ、また新学期に」

そう言って去ってゆくドラコのそんな後ろ姿を見ながらそういえば、彼って友達と言う友達がいないよなと思う。今みたいにクラッブとゴイルとずっと共にいるが彼らは友人ではないだろう。どちらかと言えば主従関係の方が近い。男の嫉妬は女々しいと言ったが、そんな事を顧みればハリーに嫉妬してしまうのも仕方がないのかもしれない。

向こうから走ってきたダフネとミリセントとともに列車へと乗り込む。途中で回ってきた車内販売からカエルのチョコレートだけ買って車窓から外の景色を眺めながら齧った。ダフネのいい所はこういう時に変に絡んでは来ないところだ。この一年でシキの扱い方を学んだとも言える。

時々二人の会話に混じりながら帰ってからのことを考える。

ホムンクルスは人の精と幾つかの要素によって培養液で作るものだ。一応魔法界でも研究に使うのか人一人が入るようなカプセルがあったためホグワーツが終わる前にとりあえず三つ。あとの材料も医療用のものを同時に頼んだから明日か明後日には届くはず。ちなみに費用はみんな大好きパトロンくんだ。そこそこの値段がしたがまぁ彼の地位はそこそこ高いんだからなんとかなるだろう。閑話休題。

問題はヴォルデモート自身だ。魂というのは物質界に留まることは出来ない。この世界にはゴーストもいるがあれはどちらかと言うと残留思念がここの濃い魔力によって力を持ったものだろう。それなのに彼は魂だけで存在していたし、更にはとても不安定なものになっていた。だからこそ別の魂ある肉体に取り憑けるのだろうが、逆に魂のない空の器に入った時どうなるか。

「そこら辺も考えないとな」
「あら、どうしたの?」
「いいや、気にしないで」

キングクロス駅に到着し、ダフネたちとも別れその足で質屋に向う。
いくらダンブルドアをパトロンとして使えると言ってもそれは卒業まで、それまでに基盤を整えておかなくてはいけない。そこで錬金で作り出した宝石や金の類を売り払ってそこそこの金額を作り出す。その一部をPC機器につぎ込み、ある程度の株を買えば一ヶ月もあればそこそこの金額には吊り上がるだろう。とりあえずPCはチップを支払って、翌日届けてもらうことにした。残った金で宝石店に入り、良質な宝石を一つ購入して帰路に着く。

もう既に夜の帳が降りかけている空は小さく星が見えている。月は広く道を照らしていた。