「おじちゃん、また言ってるんだぜ。な、レオちゃん!」
「うん、確かに・・・」
あれから何日かたった。
立って歩けるようにはなったが、怪我の方は全く治っていないので相変わらずおじさんの家に滞在させてもらっている。
この数日で分かったのは、自分の名前(多分)くらいだ。
光が見つけてくれた時に着ていた服(おじさん曰くここら辺の人間が着る服じゃない)のポケットの中に入っていた懐中時計にレオと彫ってあったらしい。
本当にこれが名前なのかは分からないが、呼ばれた時に何となくしっくりときたので合っているかもしれない。
・・・まあ今はレオでいいや。
光なんて、俺がねーちゃん呼びはむず痒くて嫌だ、と言えば"レオちゃん"呼びを始めてしまった。
"ちゃん"はやめて欲しいと思ったが、彼の話を聞く限り彼は〇〇ちゃん呼びを男女関わらずするようなので諦めた。
そんなことをぼーっとしながら考えていれば、
「なーなー、レオちゃん」
「ん?なんだ、ミツル」
光に声をかけられる。
レオちゃん呼びも少しむず痒いなぁ…。
「なんでレオちゃんっていつも男みたいな喋り方するんだぜー?」
ん?とでもいうように首を傾げながら、そんな疑問をこちらに投げ掛ける。
「・・・さー、分かんない」
言われてみればそうだ。
自分の性別は女。
でも一人称は何故か"俺"だし喋り方も男っぽい。
無意識のうちに使っていたから、あまり深く考えたことがなかった。
光が見つけた時の格好も男が着るようなものだった。
男装か何かしていたのだろうか・・・。
結局、何も答えが出ずにこの話題も終わる。
今、自分たちが居るリビングは途端に静かになった。
何となく気まずくなって、斜め下に視線を向けた。
すると、俺達の話を黙って聞いていたおじさんが口を開いた。
「昨日も言ったが、明日には治癒師が来る。ちょっとイタズラ好きだがまあいい子達だ」
歳は14か15くらいだが腕は確かだよ、とおじさんは続ける。
どうやらこの村の周辺は魔物が多いらしく、怪我をする村人や旅人も多いらしい。
しかし、治癒魔法を使える人はほとんど居ないようで"治癒師"と呼ばれる人が周期的にこの村にやって来るのだとおじさんは言っていた。
「何から何までありがとうございます」
そう言って頭を下げれば、いいってことよと言っておじさんは笑う。
本当にいい人だな・・・、と改めて思った。
「そういや、嬢ちゃん達はこれからどうするんだ」
「・・・これから?」
「んー・・・」
おじさんの質問に2人で首を傾げる。
これから、か・・・。何も考えてなかったな・・・。
流石にずっとこのままここに居るわけにもいかない訳で・・・。
「俺は今まで通りに〜ちゃん達を探す!」
しばらくの沈黙のあと光がそう言う。
そっか。そういえば彼はその"に〜ちゃん"という人たちを探していたんだった。
「・・・えっと俺は・・・・・・」
それ以上の言葉が出てこないため、口を閉じる。
どうしようか?と視線を動かして、何となく光を見る。
目が合えば彼はん?と首を傾げた。
そういえば彼には沢山助けてもらったな。そんなことをふと考える。
そうだ・・・!
「えっと俺は・・・、俺はミツルと一緒にその"に〜ちゃん"って人たちを探そうかな」
「・・・え?ホントなんだぜ!?」
そう言えば、光は驚いたように目を見開いた。
「・・・嫌?」
流石に図々しいよね・・・と思い、目線をまた床へと戻した。
「違うんだぜっ!今まで1人だったから、その・・・う、嬉しいんだぜ!」
「え・・・?」
驚きながら顔を上げれば、キラキラとした目と目が合う。
「本当に一緒に行ってもいい?」
「もちろんなんだぜ!!」
「・・・じゃ、じゃあこれからもよろしくな!」
「うん!」
ニコニコと笑いながら頷いた彼を見て、何だかこちらも嬉しくなってきた。
何だか照れくさいな、なんて思いながらおじさんの方をちらりと見れば、彼もうんうんと頷いていた。
「3人とも!ご飯が出来ましたよ〜」
向こうの部屋からそんな声が聞こえてきた。おじさんの奥さんの声である。
3人で返事をすると、立ち上がりそしておばさんのいる部屋へと移動した。
「えっと、これとこれとこれ・・・あとは・・・っと」
おばさんお手製の美味しいご飯を食べ終えてしばらく経った。
おじさんが何やらガタゴトとリビングにある大きなタンスを漁ったり、ほかの部屋から色々なものをかき集めてきたりと忙しなく動いている。
「おっちゃん、どうしたんだぜ〜?」
いち早くそれを疑問に感じた光がおじさんに近づく。俺も光を追うように数歩あとから近づいた。
「いやあ、嬢ちゃんの傷が治ったら旅に出るってさっき言ってただろ?」
「うん、言ったんだぜ?」
「それが・・・?」
確かにご飯を食べている時に、確かに自分の傷が回復したらすぐに旅に出ると言ったが、それがどうしたのだろう。
「旅には色々なものがいるだろ?だから何か持って行ってもらえるモノはないかと探してんだ」
そう言ってまた何ならガサガサと音を立てながらタンスを漁る。
「地図は持ってるか?」
「ん〜、持ってないんだぜ!」
「お、じゃあ持っていくか?」
「いいの?やった〜!ありがとなんだぜ」
綺麗に折りたたまれた地図がとある棚から出てきた。どうやら光は旅にとっては必需品の地図を持っていなかったらしく、それを素直に受け取っていた。一体今までどうやって旅をしてきたのだろうか、と少し心配にはなったがどうにかなっていたようなので、逆に感心する。
「あとはなあ・・・。・・・お、このリュック持ってくか?」
「え?リュックなら俺も持ってるんだぜ?」
「いや、このリュックは凄く便利なんだよ」
見た感じ特にこれといって特徴もないリュックについておじさんが説明を始める。どうやら昔世話になった人から貰ったというそれは"いくらでもモノを詰められるリュック"らしい。
「凄いんだぜっ!」
「だろ?だから持っていっていいぞ!」
「おお〜!」
なんだか盛り上がっている二人をぼんやりと見る。あれも持ってけ、それも持ってけといって光に渡すのはいいが、量が多い。
「おっちゃん、こんなにあっても・・・」
流石の光も渡されたものの多さに困惑している。凄くありがたいのはありがたいが、中には微妙なものも入っていて思わず苦笑した。
「ほらそのリュックに入れれば問題ねーだろ。あと、あれだ。備えあれば・・・・・・なんとやら、だ。」
「備えあれば憂いなし・・・?」
「そうそう。嬢ちゃんの言う通りだ」
へへっと笑ったおじさんに苦笑しながら言えば、頭をわしゃわしゃと照れたように掻き始めた。
その隣で光は貰ったものを次々とあのリュックの中へと詰め込んでいく。
少しも膨らまず最初の原型を保ったままのリュックに驚いた。
「おお〜!いっぱい入れたのに、凄いんだぜ〜!」
「本当だ・・・」
おじさんの言っていた通り、いくらでもモノが詰められるらしい。
でも流石に重いのではと持ってみるが重さを感じなかった。
中をのぞき込むがそこは真っ暗で何も見えない。まるで何も入っていないようにも思える。
「これってどうやって中のものを探すの?」
「あー、欲しいものを頭に思い浮かべれば自然と取れるぞ」
へー、と言いながらその通りに先程の地図を思い浮かべてリュックに手を入れた。手に何かが触れたのでそれを掴みそのままリュックの外に引っ張り出した。
「お、取れた」
手に掴んだそれはちゃんと先程の地図である。ちゃんと頭に思い浮かべたものが取れたことに感心する。
これ、本当にすごいリュックだ。
「おっちゃん、本当にこれ貰っていいの?」
「おう、さっきからやるって言ってんだろ。持ってけよ」
どうせ俺が持っててもなぁ、と言って笑う。じゃあお言葉に甘えて、とそう言って俺と光も笑った。
「よっし!もう十分だろ!」
「うん!おっちゃんありがとう!」
「ありがとう」
二人でお礼を言えば、また照れたように笑うおじさん。本当にいい人だ。
わしゃわしゃと光と俺の頭を撫でた。
「・・・いてっ」
「おっと、すまねえ。そういや怪我してたんだったな」
撫でるのはいいが、彼の言うとおり自分は怪我をしている。頭も体の傷も治っていないので相変わらず本体がぐるぐる巻きである。
「まあ、明日になったら取れるさ」
そう言ってまた私の頭をポンポンと撫でた。
・・・・・・・・・だから痛いです。
(旅の準備)